縄文GoGo旅編 第21話 5日目②
渓流沿いのシシ神の焚き上げ場。
セジ(20歳・男) 「やっぱ台風のせいか、そんなにいないよ。
けっこう探したんだけど、2匹だけだった。」
ゾキ 「見せて。これでいいよ。」
セジ 「でも、蛭(ヒル)なんてどうするんだ?」
ゾキ 「詮索する男は嫌いだよ。」
セジ 「ごめん。なあ、ゾキ・・・」
ゾキ 「ご褒美が欲しいの?」
セジ 「ああ、また鼻を舐めてくれよ。」
ゾキ 「じゃあ昨日の所に行ってて。
あたしはこっちから回って行くから。
あたし達の事は、絶対に村の連中からバレないようにするんだよ。」
セジ 「分かってる。早く来てくれよな。」
岩陰。
セジ 「もっと唾を飲ませてくれよ。鼻も舐めてくれ。
あ!ゾキ、蛭が内腿に付いてるぞ。」
ゾキ 「潰しちゃダメだよ。」
セジ 「でも血を吸ってる。」
ゾキ 「血ぐらい吸うさ。蛭なんだから。
ねえ、セジ、ミワと、したい?」
セジ 「え?どういう意味だ?」
ゾキ 「ミワを狂わせようと思ってるの。
取り澄ましていてイケ好かないし、
それにシシガミ村で愉しむなら、ミワを手なずけておかないとね。」
セジ 「ゾキの唾は、女にも効き目があるのか?」
ゾキ 「ミワくらいの熟した女に一番効くんだよ。」
セジ 「ミワが狂うって・・・
信じられないな・・・」
ゾキ 「セジだって、昨日ここで狂ったでしょ?
シシヒコだって見た事のない、狂ったミワを見てみたくない?」
セジ 「本当に、ミワと出来るのか?
ミワは用心深くて、まだ一度も股が覗けてないんだ。」
ゾキ 「他の女のは、覗いたの?」
セジ 「全員、覗いてるよ。何度も。
それが楽しくて、村に残ってるんだから。」
ゾキ 「あたしのも覗いてたでしょ。気付いてたよ。」
セジ 「ごめん。ゾキは可愛い顔してるから・・・」
ゾキ 「あたしに逆らわないって誓う?
誓えばミワとさせてあげるよ。
他にも狂わせたい女、いる?」
夕刻のアヅミ野。川の上の高台。
サチ 「この周りのクマザサって枯れた感じがするけど、どうしたのかな?」
タカジョウ 「ここの手前から全部のクマザサが枯れ始めていたな。
おそらく、花が咲いたんだぞ。」
ミツ 「クマザサの花って、私、見た事ない。」
シロクンヌ 「タカジョウはクマザサの花にまつわる言い伝えを何か聞いておらんか?」
タカジョウ 「ああ聞いてる。
師匠が、クマザサに花が咲くと、次の冬は大雪崩が起きるといっていた。」
シロクンヌ 「雪崩(なだれ)の話はおれも聞いた。
よし、この樹のこの枝、丁度いい具合に横に伸びているから、
これを棟(むね)にして屋根を掛けようか。
この下が今夜の寝床だ。
雪崩以外にも・・・」
そこに一人の男がやって来た。
男 「地の祓えの声が聞こえたが、あんたがた、ここで夜を越しなさるか?」
シロクンヌ 「ああ、そのつもりだが。」
男 「ここは猿の縄張りじゃけえ、気をつけなされや。
さっき大ワシが見えたが、猿もおらんじゃったろう?」
タカジョウ 「シップウを見て、猿も姿を見せなかった訳か。」
男 「したが夜はワシも眠ろうで、猿は出て来よるぞ。」
シロクンヌ 「おぬしは?」
男 「わしゃあこの先に女房らと住みよる者よ。
ほれ、あそこに2匹、斥候(せっこう偵察の意)じゃろな。」
タカジョウ 「数は多いのか?」
男 「多い多い。
近頃マシラというかしらが現れてな、三つの群れをまとめよった。」
タカジョウ 「流れ猿がか?」
男 「いや、マシラは人間ぞ。見た目はの。
人の言葉も話しよるが、猿の言葉も話しよる。」
シロクンヌ 「あやかしの類(たぐ)いか?」
男 「マシラの事は、わしらもようわからん。」
シロクンヌ 「この辺り、クマザサに花が咲いたのか?」
男 「ああ、春に咲きよった。」
タカジョウ 「向こうから、また誰か来るな。」
男 「マシラじゃ。わしゃあもう行くけえ。」
シオユ村(シシガミ村)の近く。
セジ 「ゾキはレンザの子を産むのか?」
ゾキ 「そうだよ。あたしとの事、レンザにバレないようにするんだよ。」
セジ 「分かってる。おれとも会ってくれるんだろう?」
ゾキ 「ああ、やってもらいたい事も出て来るだろうからね。」
セジ 「毎日会えそうか?」
ゾキ 「一日おきだよ、鼻を舐めてやるのは。
とにかく今夜、レンザを狂わせて、その様子次第だな。」
セジ 「おれ、ゾキのためなら何でもやるからさ、出来るだけ会ってくれよ。」
ゾキ 「分かったよ。会う時はあたしから声を掛ける。
そっちからあたしに話しかけるんじゃないよ。
あたしの言う事は、絶対だ。
分かってるね?」
セジ 「分かってる。絶対にゾキには逆らわないよ。
ゾキ、内腿で、血を吸った蛭が、パンパンにふくらんでるぞ。」
アヅミ野。川の上の高台。
タカジョウ 「ん?あれは・・・
やっぱりそうだ。ホコラだ。
マシラって言うのは、ホコラだったのか。」
シロクンヌ 「ホコラだって?
あれがホコラ?
あれはミノリだぞ。樹の上で暮らしていた。
アケビ村で出会ったハグレだ。
おれに明り壺の祭りに行けと言った男だよ。」
ホコラ 「やあ、おそろいだな。
シップウを見かけたから来てみたのだ。
腹が減ったのだが、何か食い物は無いかな?」