縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第143話 22日目③

 

 

 

          洞窟。

 
シロクン  「手火は持ったな。洞窟に入るぞ。
        壁際まで行ったら、そこにロウソクを置いて、手火で火を点ける。
        そうやって広さを確認しようか。」
ムマヂカリ  「足元に気をつけろよ。亀裂が無いとは言えん。」
ナジオ  「水音のする方に行ってみるよ。」
エミヌ  「あ、こっちはもう壁だよ。」
ヤッホ  「水音の方にも壁があるけど・・・この奥が深いのか。」
ナジオ  「この岩が、大きな桶になってるよ。
      壁伝いに、水が流れ込んで来てる。
      だけど水かさは増えないから、水面のどこかに出口があるんだな。
      そこが外の湧き水につながってるんだ。」
シロクン  「後で葉っぱを浮かべてみるか。水の出口が分かるかもしれん。」
カタグラ  「ここが一番奥の壁かな」
エミヌ  「大ムロヤよりも、うんと広いね。」
ヤッホ  「地面も乾いてるし、寒さ対策をすれば利用できそうだよな?」
サチ  「父さん、この石のツララ、奥まで続いてるよ。ちょっと行って見るね。」
シロクン  「石のツララ? そんなのどこにある?」
ヤッホ  「サチ、一人で行ったら危ないぞ。」
オジヌ  「石のツララって、どこにあるの?」
シロクン  「サチはどこに行った?」
エミヌ  「一人で行っちゃって、怖くないのかな?」
シロクン  「サチー! どこだー! 戻って来ーい!」
ナクモ  「あったよ! 石のツララ。でも地面がデコボコで・・・」
シロクン  「サチはこんな所に入って行ったのか!」
ムマヂカリ  「奥はまったく見えんな。」
エミヌ  「サチー、戻っておいでー。」
ナクモ  「これ、消えてるけど、サチの手火じゃない?」
シロクン  「そうだ。サチは手火を置いて行ったのか・・・」
 
 
          湧き水平。
 
エミヌ  「驚いたねー! サチは暗闇でも物が見えるの?」
サチ  「くらやみ? 暗いって言う意味?」
エミヌ  「真っ暗っていう意味だよ。」
サチ  「真っ暗・・・暗いけど、見えるでしょう?」
シロクン  「サチ、こっちに来てみろ。洞窟に入るぞ。
        この位置から、どこまで見える?」
サチ  「どこまで? 物陰は見えないよ。あとは全部見えるでしょう?」
シロクン  「奥の壁は?」
サチ  「見えるよ。天井も見える。父さんは、見えないの?」
ハギ  「おれ達は、ロウソクの明りくらいしか見えないよな?」
ムマヂカリ  「よし! 実験だ。
        おれが奥に行って指を立てるから、何本か、言い当ててくれ。」
 
カタグラ  「驚いたな。全部当てたんだろう? 見えてるんだな。」
サチ  「母さんも、見えてたから、みんな見えるんだと思ってた。」
シロクン  「だからサチは、夜が怖くないんだな。」
サラ  「でも、それって凄い能力だよ。」
サチ  「父さん、そうなの?」
シロクン  「そうだ。この先、サチが頼りになる場面が出て来るだろうな。」
オジヌ  「サチの父さんはどうだったの? 見えてたの?」
サチ  「たぶん、見えてたと思うよ。
     見えるとか見えないとか、そんな話自体、一度もしたこと無かったから。」
オジヌ  「サチの父さんって、5年前は何してた?」
サチ  「スワで、沈んだ村の調査をしていたと思う。」
オジヌ  「こっちに居たのか・・・」
シロクン  「旗塔の下でハニサを救った謎の人物か?」
オジヌ  「そう。その人も、月の無い夜なのに、良く見えていたんだ。」
シロクン  「そうらしいな・・・
        それでサチ、ツララの道の奥だが、どうなっていた?」
サチ  「物凄く広いよ。天井も高いの。
     でも複雑に入り組んだ形してる。
     地面は滑りやすくて、しかも平じゃないの。
     下り坂の所もあるし、デコボコもしてた。
     そして、うんと寒いの。ツララの道も寒いよ。」
ヤッホ  「アニキ、とにかく行って見ようよ。」
 
 
          石のツララの道。
 
サチ  「奥の広い所は危ないから、無暗に動き回らない方がいいよ。」
シロクン  「広い所に出たら、薪を焚いてみるか。
        サチ、先導してくれ。ゆっくり行ってくれよ。
        下にばっかり気を取られていると、ツララに頭をぶつけるぞ。」
ナジオ  「確かに寒いな。それにしても歩きにくい道だ。サチはよく歩いたな。」
カタグラ  「ナクモ、おれにつかまってろよ。」
サチ  「あそこを曲がれば、広い所に出るよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。