第144話 22日目④
奥の洞窟。
シロクンヌ 「広い!」
ハギ 「あー、あー、あー、ここは声の響き方も違うな。」
サチ 「さっきここに立って、父さん達の呼びかけに返事をしてたの。聞こえた?」
シロクンヌ 「サチの返事は聞こえなかったよな?」
ナクモ 「呼びかける側の声が反響していて、サチの声は分からなかったよ。」
サチ 「やっぱり聞こえてなかったんだね。
ここで大声を出してもツララの道の向こうには、聞こえにくいかも知れない。」
ムマヂカリ 「薪を焚こうか。」
カタグラ 「天井は高いな。しかも石のツララだらけだ。
あの石のツララ、落ちて来ないだろうな。」
サラ 「今のところ、生き物は見当たらない。
コウモリもいない。他に入口は無いんだね。」
ナジオ 「いかにもお宝の隠し場所って雰囲気だな。」
ヤッホ 「わー!」
ヤッホが足を滑らせて尻もちをつき、そのまま斜面を滑って行ってしまった。
やがて岩にぶつかって止まったが、手火は手から離れ、更に先まで滑って行った。
ハギ 「大丈夫か?」
ヤッホ 「いてててて。」
サチ 「カタグラ! そっちは駄目! 危ないよ!」
カタグラ 「うわっ! 本当だ! 危なかった!
ヤッホに気を取られて横に進んでいたら、そぐそばに、岩の裂け目があった!
これ、底が見えんぞ。落ちたら死んでいたな。
あー、命拾いした! サチのおかげだ。」
シロクンヌ 「ヤッホ、怪我は?」
ヤッホ 「アニキ、ぶつけただけだ。血も出て無いよ。
それよりアニキ、おれの手火が照らしている物が、そっから見えるかい?」
シロクンヌ 「いや、ここからは見えん。見えるのは、ヤッホのいる少し先までだ。
そこから、落ち込んだ様になってるだろう?」
ヤッホ 「おれはこの岩にぶつかったから良かったけど、少し右にズレてたら、
あそこまで落ちてたんだ。
あそこまで落ちたら、大怪我してただろうな。」
エミヌ 「何か見えるの?」
ヤッホ 「骨だよ。人の骨だ。シャレコウベだけで3つは見える。」
シロクンヌ 「そこには、降りられそうか?」
ヤッホ 「うん。降りるのはできそうだけど、登るのがおれには無理っぽいな。」
シロクンヌ 「縄を下ろそう。この斜面は滑るぞ。ヤッホそこの周りは滑りそうか?」
ヤッホ 「うん。滑って登れそうじゃない。」
シロクンヌ 「よし、縄を下すぞ。先端を輪にしろ。そこに足をかけろ。背中を下にして。
いいか、引き上げるぞ。
ヤッホを上げたら、おれが降りてみる。
できれば骨を回収したい。
どこかに埋めてやろう。
サチ、オジヌと二人で行って、カゴを持って来てくれ。
そうだ、桜の皮も持って来てくれ。」
帰りの道。
エミヌ 「あー、なんか今日は大冒険した気分!」
ナクモ 「奥の洞窟、怖かったね! でも楽しかった!」
ナジオ 「シロクンヌといると、いろんな冒険が出来るよな。」
ヤッホ 「アニキでなきゃ、あんな事、考えつかないよ。」
ムマヂカリ 「シロクンヌがやって見せなければ、誰もやろうとは思わんな。」
カタグラ 「夜宴の時に、マユやソマユにもやらせてみよう。あいつら、ちびるかもな。」
ハギ 「途中が真っ暗だろ? あれ、物凄く怖いよな。」
オジヌ 「おれ、次はサチに勝ちたい。」
サラ 「シロクンヌの後にみんな二の足を踏んでたけど、
サチとオジヌだけはすぐにやりたがったものね。」
ナクモ 「考えてみたら、私達、お昼食べてないよ。」
ヤッホ 「夢中だったよな。いろいろ立ち働いたぞ、おれ達。」
サチ 「ちょっとお花を摘んで来るね。お姉ちゃんのお土産。」
シロクンヌ 「ではここで休憩するか。ちょうどこの辺りだったろう?」
カタグラ 「そうだ。ムマヂカリ、一丁頼む。」
ムマヂカリ 「ではカタグラの腕前拝見と行くか。
すこし森に入ればいいな?」
シロクンヌ 「おれも見に行っていいか?」
カタグラ 「ではシロクンヌだけは許可しよう(笑)。
みんなは悪いが少し待っていてくれ。すぐに白黒つく。」
森に入り、ムマヂカリがシカ笛を吹いた。
しばらくすると、一頭の雄鹿が現れた。
かなりの大物だ。
しかし距離がある。
カタグラは大きく弓を引き、そしてすぐに放った。
矢は真っ直ぐに飛んで、雄鹿の頸(くび)を右から左に貫通した。
雄鹿は数歩あゆみ、くずおれた。
カタグラは素早く駆け寄り、頸動脈に黒切りを入れ、後ろ足を持ち強引に持ち上げた。
やがて雄鹿は失血死した。
カタグラ 「手伝ってくれ。下の川まで運んで、水に浸けてすぐに冷やす。」