縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第198話 42日目③

 
 
 
          森の中。
 
シロクンヌ  「ミツ!大丈夫か?」
ミツ  「お爺さんが、怪我しちゃった!私を助けようとしてくれたの。」
イワジイ  「なんの、たいした怪我ではない。
       それにしても、恐ろしく狂暴な小僧じゃったの。」
シロクン  「旅のお方か?腕をやられたのだな。怪我の具合を見るぞ。」
イワジイ  「旅とゆうても、すぐそこじゃ。
       わしはイワジイと言って、黒切りの里から来たんじゃよ。」
シロクン  「黒切りの・・・?
        もしかして、タカジョウの知り合いの山師か?」
イワジイ  「おおそうじゃ。おぬしは?」
シロクン  「おれはシロクンヌ。ミツを助けてくれたのだな。ありがとう!」
イワジイ  「いや、ミツを助けたのはシップウじゃよ。
       シップウのお陰で、わしもミツも助かったんじゃ。
       おぬしがシロクンヌなのか!タカジョウから、よう話は聞いておる。
       会ってみたいと思うてうおったんじゃ。」
 
イナ  「クンヌー!ミツは無事ー?」
サチ  「ミツー!大丈夫ー?」
ミツ  「サチー、怖かったよー!」 ミツが泣き出した。
 
ササヒコ  「ともかく、無事で良かった。シップウのお手柄だな。」
タカジョウ  「シップウ、よくやったぞ。洞窟まで、おれの腕にとまっていろ。」
ヌリホツマ  「兄者、毒消し草を使うぞよ。」
イワジイ  「スス、痛とうするでないぞ。」
ハニサ  「ススって?」
ヌリホツマ  「わしの名じゃ。ほれ、あとは塗り薬を塗れば仕上がりじゃ。」
シロクン  「そいつは、顔に怪我をしたのだな?」
イワジイ  「うむ。シップウがわしの危機を察知して、そやつに一撃をくらわした。
       実際、シップウが来なければ、わしの命は無かったな。
       女は、背中をやられたはずじゃ。」
シロクン  「そいつらは、ハニサとか光の子とか、そういう事は一切口にしなかったのだな?」
ミツ  「しなかったよ。ただ私に、変な事をしようとしていただけ。」
イワジイ  「ただ逃げ去る時に、必ず仕返しするとか、気になる事を言うてはおったがの。」
ハギ  「オロチとか言う奴、12でも、もう何人も殺めていそうだな。」
シロクン  「ひとっ走りして、おれはこの事をテイトンポに伝えて来る。
        すぐに戻って来るから、みんなは洞窟を目指してくれ。」
 
     シロクンヌは、斜面を駆け上って行った。
 
 
          川の道。湧き水平の近く。
 
カザヤ  「おーい!遅かったなー。」
エミヌ  「カザヤだ。心配して、迎えに来てくれたのね。カザヤー!」
コヨウ  「あ!お爺ちゃんだ!お爺ちゃんが居る!お爺ちゃーん!」
 
カザヤ  「そんな事があったのか。エミヌ、おれは今からアユ村に伝えて来る。」
シロクン  「いや、おれが行く。すぐに戻って来るよ。」
イワジイ  「そんな事を言うて、さっきウルシ村から駆け戻ったばかりじゃろう。
       疲れておろうが。」
イナ  「お腹減ってないの?」
シロクン  「大丈夫だ。夕刻前には戻るから、ハニサ、見晴らし岩で夕陽を見よう。」
ハニサ  「うん!気をつけてね。」
 
    シロクンヌは駆け出した。見る見る背中が小さくなる。
 
シオラム  「まったく、底なしの体力だな。」
タカジョウ  「イナ、シロクンヌには母親の違う兄弟が二人いるだろう。
        残りの二人も、ああいう風に途轍(とてつ)もないのか?」
イナ  「10年前に、3人の中からサッチがクンヌに選ばれたの。
     その後、3人共、旅に出ているのよ。
     だから10年前の印象しか無いのだけど・・・
     格闘だけで見れば、同じくらいだったかしら。
     でも人を背負って崖を渡ったりするのは、サッチにしか出来ないわね。
     サッチは、テイトンポの弟子になったのが大きいのよ。」
ササヒコ  「やっぱりテイトンポというのは、凄い男なのだな。」
ハニサ  「残りの二人は、これからどうするの?」
イナ  「来年には、ヲウミに戻って来るわよ。その後は、本人の自由ね。
     シロの村で、のんびり暮らしてもいいし、どこかでシロの里を開いてもいいし・・・
     一人は、船乗りになっている様よ。
     サッチと仲が良かったから、今でも会ったりしてるんじゃないかしら。」
シオラム  「船乗りと言う事は、漁師とは違うのだな?」
イナ  「漁もするのだろうけど、おそらく、海で人や荷物を運ぶ仕事ね。」
シオラム  「シオ村にも海運をする者がいるが、腕っぷしが強いぞ。
       連中、日がな一日、舟を漕いでいるからな。
       脚より太い腕の者もいるくらいだ(笑)。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。