第207話 43日目①
翌日。湧き水平での昼食。
シオラム 「兄貴、改めて紹介されると、照れ臭いもんだな。」
ササヒコ 「何を言っておる。美しい娘さんではないか。ナジオにしては上出来だ。」
フクホ 「テミユはね、一本気のある良い娘だよ。
女にはキツイ道のりの黒切りの里にも、何度もお手伝いに行ってくれたんだから。」
イワジイ 「テミユが来ると、黒切りの里は華やいだものじゃ。」
カザヤ 「おれ抜きで一人で来いと、よく言われておったな(笑)。」
テミユ 「鉱夫はみんな、冗談好きなのよ。」
シオラム 「さっき袖の下からチラッと見えたが・・・
腕の傷はどうしたんだ?」
テミユ 「これはね、オオヤマネコにやられたの。」
カザヤ 「黒切りの里からの帰り道で、うっかりマタタビの樹のそばで野営して寝てしまったんだ。
もう何年も前だよな?」
オジヌ 「それにもめげずに、黒切りの里に通ったんだね。」
ナクモ 「怖くなかったの?」
テミユ 「子供の頃、スワの湖で溺れかけたの。
あれはホントに怖かったんだけど、あれに比べれば、そんなに怖くなかったかな。」
イナ 「分かるわ。あたしもヒワの湖で溺れかけたの。子供の時に。
あれに比べたら、ハタレなんて全然怖くないもの。」
オジヌ 「おれはまだ、溺れた事が無いからな・・・」
ハニサ 「シロクンヌも溺れた事があるの?」
シロクンヌ 「おれは無いが、海では何度か怖い思いをしているよ。」
エミヌ 「シロクンヌでも怖い思いをしてるんだ。
ナジオは溺れた事あるの?海で溺れたら、相当怖いんじゃない?」
ナジオ 「おれは10回以上溺れてるよ。」
ソマユ 「じゃあ、もう怖いもの無しだね。」
ナジオ 「いや、そうでもない。
溺れ過ぎてて、溺れる事がそれほど怖く無くなってるんだな。
他に怖いものがいっぱいあるよ。」
タカジョウ 「ワハハハハ。ナジオらしい落ちだな。」
アシヒコ 「ハハハ。さあ鍋が煮えて来たようじゃぞ。
木の皮鍋と言うのか。こうやって食べるのもいいもんじゃな。」
イナ 「シジミのダシね。懐かしい味だわ。」
カタグラ 「ほら、黒舞茸と平茸のもぎたてだ。鍋に入れるぞ。
ここにはキノコ樹(大量にキノコを生やす樹)が2本あるし、他のミズナラにも、
ちょくちょく良いキノコが生えるんだ。」
ササヒコ 「いい所だなあ。もぎたてと言うのが泣かせる。
火が通り過ぎんうちに食べると旨いんだよな。」
フクホ 「自分の好みの煮え加減で食べられるんだね。」
ミツ 「後で鍋の折り方、教えて。」
シロクンヌ 「ああいいぞ。旅先では、ミツに折ってもらおうか(笑)。」
マグラ 「しかし、ミツは無事で良かったよ。
ミヤコの話、いろいろ聞かせてくれよな。
オロチの件は、スワ中の村に知れ渡っている。
スワにおるなら、すぐに捕縛できると思うぞ。」
イワジイ 「早く捕まるといいのう。」
テミユ 「そういう点では、今、スワの結束は固いから安心よね。
それはそうと、ソマユはウルシ村でタガオと暮らすんでしょう?急展開よねえ。」
イナ 「さっきもあたしとタガオで、ソマユの施術をしたのよ。薬湯で。」
エミヌ 「きゃー、みんな裸で?」
イナ 「そうよ。」
タガオ 「あくまでも、治療だぞ。」
ソマユ 「お陰で、もうほとんど治ったのよ。これからは、毎日タガオに按摩してもらうんだ。」
エミヌ 「いいなー。毎日会えるって。
私達ももっと会おうよ。」
カザヤ 「そうだな。月に一回じゃあ少ないな。」
ハギ 「ハニサはシロクンヌが旅立つと寂しいだろう?」
ハニサ 「そりゃあ寂しいよ。でも帰って来てくれるからいいの。
それに寂しい時は、お腹を撫でるんだ。」
カタグラ 「グフッ、グフグフッ・・・」
マグラ 「ばかっ、おまえが泣いてどうする。」
ヌリホツマ 「なんじゃ、カタグラは泣き上戸かや。」
サラ 「タガオまで泣いてるよ。」
マユ 「この二人は、スワの二大泣き上戸なのよ。」
シオラム 「ワハハ、アユ村を飛び越えて、スワなんだな。」
エミヌ 「ねえタカジョウ、シロクンヌは絶対、ハニサはどうしてるかな?って、独り言で言うから、
ミヤコに着くまでに、何回言うか数えててね。」
ナジオ 「それな、見晴らし岩でも言ったよな(笑)。」
イナ 「この二人、いつもくっついてるのよ。」
シロクンヌ 「嘘をつけ。そんなにくっついてはおらんぞ。」
フクホ 「いいじゃないさ。仲が良くて。」
テミユ 「ハニサって、愛されてるんだね。」
エミヌ 「ねえねえサチ、ムロヤではどうなの?ぶちゅっていう感じ?」
サチ 「父さんが毛皮の上に寝転んでて、お姉ちゃんが父さんに寄り添って座ってるの。」
ハニサ 「もう、サチ。そういう事言わないの。」
シロクンヌ 「カタグラ、そろそろ尻を出してくれ。」
タカジョウ 「ワハハ、とうとう泣きが入ったぞ。」
イワジイ 「ハニサは美人じゃからのう。男ならばくっついていたいものじゃぞ。
わしももう少し若ければ、シロクンヌと張り合ったんじゃがな。」
コヨウ 「アハハ、お爺ちゃん、やっぱり枯れてないや。
ところでお爺ちゃん、夜居なかったでしょう。どこで寝たの?」
イワジイ 「ぬくぬくの寝袋をもろうたからのう。奥の洞窟で寝たんじゃよ。
岩や石の声を聞きながらのう。」
タカジョウ 「な?筋金入りの石狂いだろう?(笑)」
エミヌ 「えー嘘だ、奥の洞窟にいたの?」
カザヤ 「気付かなかったな・・・」
エミヌ 「岩や石の声以外に、なにか聞こえた?」
イワジイ 「安心せい。わしは枯れておる。」
エミヌ 「・・・・・」
ハギ 「エミヌ、盗み聞かれ願望を、目覚めさせるんじゃないぞ(笑)。」