縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第23話 5日目④

 
 
 
          アヅミ野。移動中。
 
    もうすぐ陽が沈む。空は晴れ、東の山の上に十日の月が見えている。
 
シロクン  「プンプン匂って来たぞ。」
ホコラ  「もう近い。
      向こうに岩の崖が見えるだろう?
      あの上がそうだ。」
タカジョウ  「シップウはあの樹で夜を越させる事にした。
        さっきテンを食べて満足しておるから、ぐっすり寝るよ。」
サチ  「ホコラは猿と友達なの?」
ホコラ  「そうだぞ。光るハニサを見て、六つ目の心の眼が開いてな、
      以来、猿と心が通じ合うようになった。」
ミツ  「猿と遊ぶの?」
ホコラ  「まあ遊ばん事もないが、ここでは仕事をしてもらったんだ。
      あの岩の崖の上だが、シロクンヌ、ミツを抱えて登れるかな?」
シロクン  「ミツ、抱っこ帯だ。
        猿酒と言ったが、この匂いからしてかなりの量があるんじゃないか?
        仕事と言うのは猿酒作りか?」
ホコラ  「そっちは余力でやってもらった。
      さあ、登るぞ。」
 
 
          岩の崖の上。
 
サチ  「父さん、すごい数の猿が集まってるよ。」      
シロクン  「ホントだな。猿だらけだ(笑)。ミツ、降ろすぞ。」
ミツ  「キーキー言ってて、私達の声が聞こえないね。」
シロクンヌ  「あそこのちょっとした洞窟の奥に猿酒があるんだな。」
ホコラ  「そうだ。中に入っただけで酔っ払うぞ(笑)。」
 
    ホコラの姿を見つけて、猿達が一斉に樹から降りて来て、飛び跳ねて喜んでいる。
 
タカジョウ  「ホコラは大人気だな(笑)。」
ホコラ  「よしよし、待っておったのだな。もう少しの辛抱だ。
      月が輝いたらはじめるぞ。
      おれ達は、あの岩の上に場を作ろう。」
タカジョウ  「レンザの事を、サルサルと言ってからかって来たが、
        猿もこれだけ集まると壮観だな。」
ミツ  「猿と一緒に宴会するの?」
ホコラ  「そうだぞ。あれ達はよく働いてくれたから、ねぎらいの宴会だよ。
      待っていてくれ、ヒョウタンに猿酒と甘酒を汲んでくるから。」
      
シロクン  「タカジョウはホコラとは古いのか?」
タカジョウ  「5年以上だな。ある日、大きなワシを見たと言って訪ねて来たんだ。」
シロクン  「サチはホコラと話した事があったのか?」
サチ  「はい。
     大ムロヤでスワの人達に矢の根石の村(アヤの村)の話をしたでしょう。
     その時に熱心に聞いていて、その後でいろいろ質問されたの。
     それからいろり屋で、アユ村のフクホが持って来たアユの甘露煮を一緒に食べたよ。」
シロクン  「へー、そんな事があったんだな。明り壺の祭りの日だろう?」
サチ  「そう。それで、心の眼が五つ開いたって言っていて、
     アユ村のカミのアシヒコに頼まれて、矢の根石の村の歌を詠んだの。
     即興で。」
ミツ  「どんな歌だったの?」
サチ  「確かね・・・
    『矢切り立つ スワの湖 妻籠めに 矢頭(やがしら)作る その矢頭を』
     って詠んで、村の女の人は、矢尻ではなく矢頭を作っていたんだって言ってた。」
ミツ  「その歌知ってる。マグラが作業しながら口ずさんでた。」
タカジョウ  「即座に詠んだのか?」
サチ  「そう。その場にいたみんなが感心してた。」
タカジョウ  「しかし、サチもよく覚えていたな。そっちにも感心するぞ。」
サチ  「なんとなく覚えてた。」
ホコラ  「ほいほい、ヒョウタン切りの椀(わん)だ。人数分あるからな。
      ヌリホツマの漆塗りだぞ。酒を呑むのはこれに限る。
      さて、山の上に十日の月が輝いた。始めるとするか。」
 
    ホコラが猿の群れの真ん中に歩み出た。
    猿達が喜んで飛び跳ねている。
 
ホコラ  「かーかーかーしゃっ!」 猿達が静まり返った。
 
ホコラ  「ひょーほーれーしゃっ!」 猿達が一斉に南東の空の月を仰いだ。
 
ホコラ  「きゃーざー!」 猿達が一斉に鳴き声を上げた。
 
ホコラ  「しぇーーー!」 猿達が我先にと洞窟になだれ込んだ。
 
 
シロクン  「タカジョウ、こんな猿を見た事あるか?」
タカジョウ  「あるはず無いだろう。夢を見ておるようだ。」
サチ  「ミツ、面白かったね!」
ミツ  「ねえ、猿酒ってどうやって作るの?」
サチ  「岩の窪みに野ブドウや山ブドウの実が落ちて、自然に出来るって聞いた事があるよ。」
ミツ  「でもあそこは洞窟の中だから、落ちて来ないよね。
     猿が実を集めたのかな?」
シロクン  「おそらくそうだろう。あとでホコラに聞いてみればいい。」
タカジョウ  「あれだけ猿に慕われておるのだから、猿もそれぐらいはするだろうな。」
ホコラ  「お待たせしたな。さあ、そこで火を熾して、おれ達も始めようか。」
 
 
 
          シオユ村(シシガミ村)。見張り小屋。
 
シシヒコ  「そういう事か・・・レンがなあ・・・」
レンザ  「うん。人に対して、レンはあそこまでした事はないんだ。」
シュリ  「ゾキがコノカミに何か言って来たの?」
シシヒコ  「今しがたセジと二人で来てな、明日、二人で旅立つそうだ。
       お世話になりましたってあいさつに来たんだ。
       焚き上げで、セジと意気投合したそうだ。」
レンザ  「そうか・・・なんだか悪い事したな。
      あそこまで唸られると、ゾキもこの村にいるのが怖くなったんだと思う。」
シシヒコ  「そうなのだろうが・・・何でレンはゾキに唸ったんだろうな?
       レンはゾキに何かを感じたんだろう?
       ・・・ミツにゾキの顔を見てもらえばよかった。今更言っても遅いが。」
シュリ  「コノカミもそう思うんだ。」
シシヒコ  「まあな。昨日、シロクンヌから聞いたオロチの姉の話は、衝撃的だったからな。
       今、つらつら思い返してみると、ゾキには不審な点もあるんだ。
       だがゾキはこの村に来て、何も悪事を働いてはいない。
       明日は、元気でなと言って見送るしかないな。」
シュリ  「セジと意気投合ってのも何かありそうよね。」
レンザ  「セジって?」
シュリ  「あたしの1個下なの。鼻つまみ者。
      あたし、何度も覗かれたんだよ。
      あたしだけじゃなくて、みんな覗かれてる。
      あいつがいなくなると、村の女は大喜びすると思うよ。」
 
 
 
          アヅミ野。岩の崖の上。
 
ホコラ  「あの洞窟の中に岩の窪みが十ほどあってな、
      猿が実を集めてきて、窪みに入れて石でコッツンコッツンたたくんだ。
      そのあとは、放ったらかしだ。」
サチ  「それでお酒になるの?」
ホコラ  「あとは運まかせ。腐る窪みもあれば、醸(かも)す窪みもある。
      だから窪みによって、味も強さもちがっておる。」
ミツ  「これ、美味しいよ。山ブドウの味とはちょっと違うけど。」
ホコラ  「微妙に醸されておるからな。
      あ!そりゃあシシ腿の塩締めではないか。
      おぬしら、シシガミ村に立ち寄ったのだな。」
タカジョウ  「そうだよ、今朝向こうを発ってきたんだ。」
ホコラ  「かなり遠いぞ。ここまで走って来たのか。
      だがシシ腿は大事に取っておけ。
      黒切りを入れてしまうと、切り口は傷み始めるから。
      今夜は灰燻しで行こう。」
シロクンヌ  「そうなんだな。
        ところで猿達は何の仕事をしたのだ?」
ホコラ  「この地を守ってもらった。
      この春に、ここらのクマザサに花が咲いたんだ。」
 
 
※ 番外ニュース
 
昨日(2022年1月19日)NHKで驚くべき報道があったようです。
 

www3.nhk.or.jp

以下、報道内容です。

 
鹿児島県の種子島の遺跡で、7400年以上前の地層から土器や石器が見つかりました。
およそ7300年前に発生した巨大噴火の直前のものとみられ、壊滅的な被害をもたらした噴火の影響で解明されていないことが多い、この時代を知る手がかりになると期待されています。
 
鹿児島県の種子島にある西之表市の下之平遺跡は、7400年から7800年前の縄文時代早期のものとみられ、去年10月から始まった発掘調査で地層から土器や石器などおよそ1000点が出土しました。
 
そしてなんと!

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トロトロ石器が出たと言うのです!
鬼界カルデラの大噴火によって発生した幸屋火砕流の地層の下からです。
 
このトロトロ石器こそ、私にとって、縄文最大の謎なのです。
シロクンヌ一行の次の通過地点、大町市の山の神遺跡ではトロトロ石器が41個出ています。
41個は、一遺跡最多です。

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約8000年前のものだそうです。
これ、いったい何なのでしょうね?
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト