アユ村へ 第47話 8日目④
さっき見えていた旗が近付いて来た。
この丘の上に、村があるようだ。
ハニサ 「あそこ、村があるんでしょう?
あたしね、他の村に行ったことが無いの。」
シロクンヌ 「行ってみたいのか?」
ハニサ 「そう思ってたんだけど、さっきみたいな人がいたら嫌だなって・・・」
シロクンヌ 「あそこまでの奴は、どんな村にもいないよ。」
ハニサ 「そうだよね・・・
あ!なんか、男の人達がこっちに来るよ。あたし、怖い!」
シロクンヌ 「村の連中だ。平気だよ。」
アシヒコ(56歳・男) 「あんたがた、この道を来なさったか?」
彼女と二人、温泉につかろうと思ってな(笑)。」
アシヒコ 「これは御無礼した。
わしはアシヒコと言って、あの村のカミじゃが、
途中、おかしな輩(やから)に出会わなんだか?」
ハニサ 「出会ったよ。
あたし、いやらしい目で見られたもん。
いきなり襲いかかって来たんだけど、シロクンヌが、やっつけてくれた。」
カタグラ(24歳・男) 「なんだと!何人いたんだ?」
ハニサ 「最初は二人。
あたし三人目がいるとは思わなかったんだけど、そいつがいきなり襲ってきたの。」
カタグラ 「・・・本当かもしれんな。
・・・じゃないと、こんなきれいな娘が無事であるはずがない。」
ハニサ 「本当だよ。
そいつらシロクンヌに、たま・・・アレを潰されてころがってるから、
見てくればいいよ。」
カタグラ 「よし!みんな、見に行ってみよう!」 走り去った。
アシヒコ 「シロクンヌ、ちょうどお昼じゃ。村に立ち寄っておくれ。
たいした物は振舞えんが。」
シロクンヌ 「どうするハニサ? お邪魔してみるか?」
ハニサ 「うん! 温泉の事とか、沈んだ村の事とか、聞いてみない?」
シロクンヌ 「では少し立ち寄らせてくれ。
土地の話も聞かせて欲しい。」
アシヒコ 「お安いご用じゃ。知っておる事なら、何でも話して進ぜるぞい。」
シロクンヌ 「ところでコノカミ、村の名は?」
アシヒコ 「アユ村と言ってな、この道を来た者は皆驚くが、道中 、湖は見えなんだろう?
村から見ると、すぐそこに湖が見えるんじゃよ。」
アユ村の見晴らし広場。
ハニサ 「湖がきれい!透き通って、底が見えるよ!」
アシヒコ 「浅い湖じゃからな(笑)。」
ハニサ 「コノカミ、あたしね、こんな遠くにまで来たの初めてなの。
シロクンヌがいなければ、絶対来られなかった!
スワの湖・・・世の中には、こんなにきれいな所があるんだね!」
アシヒコ 「シロクンヌ、ハニサは天の使いじゃろう?
ここまで美しい娘はおらん。
こうして話しておるだけで、不思議じゃのう、幸せな心持ちにさせられる。
ハニサ、今、湖は青かろう?
これが夕暮れに時は、赤く染まるんじゃ。
空も湖面も、真っ赤になるんじゃ。
見とうはないか?」
ハニサ 「この正面が西なんだ!
あたし、見てみたい! シロクンヌは?」
シロクンヌ 「それを聞いたら、おれだって見てみたいさ。」
アシヒコ 「やっと出来たようじゃな。女房のフクホじゃ。」
フクホ(50歳・女) 「お待たせしたね。鴨鍋だけど、よかったかい?」
アシヒコ 「フクホ、こちらシロクンヌとハニサじゃ。
シロクンヌはこの村の恩人じゃ。
ハニサは、天からの使いじゃ。
あの厄介者は、もうおらん。」
フクホ 「おらんって、一体どういう事?」
アシヒコ 「このシロクンヌが、打ち倒して下さった!」
フクホ 「ホントかい! まあまあこれは!
シロクンヌ、ありがとうございました。
私は、いつかこんな日が来ないかと願っていたんだよ。
本当に来たんだねえ!
こうしちゃいられない。歓迎の夜宴の準備をしなきゃ。」
アシヒコ 「そういうことですじゃ。
それを召しあがったら、湖のほとりを散策なさるがよい。
そして夕刻には、赤く染まった湖を、ここでわしらと一緒に見て欲しい。
もちろんお二人の寝所(しんじょ)は用意する。
温泉ならば、ここのすぐ裏にも湧いておる。」
ハニサ 「コノカミ、まだみんな帰って来て無いんでしょう?
なんであたしの言った事が、本当だと分かったの?」
アシヒコ 「天の使いが、嘘などをつくはずがなかろうが(笑)。」
アユ村の出口。
シロクンヌ 「すっかり御馳走になった。」
ハニサ 「鴨鍋、美味しかったね!」
シロクンヌ 「コノカミ、お言葉に甘えて、今夜は御厄介になるよ。
夕刻前には戻って来る。」
アシヒコ 「待っておるぞい。
ほれ、あの山とあの山の間の谷にも温泉が湧いておるぞい。
景色が良いわけではないがの。
よって、この地の者も滅多に行きゃあせん。」
その時、突然少女が走ってきて、シロクンヌにしがみついた。
「お兄ちゃん!ありがとう!」・・・そう言うと、あとは大声で泣き出した。
そこへ村の男達が帰って来た。
カタグラ 「コノカミ、その人達の言った事は本当だったよ。」
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