縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

山の裏側を見る男 第32話 5日目⑧

 

 

          大ムロヤ。歓迎の宴。続き。

 
ヤシム  「ところでテイトンポ、来た時いきなり『子供は救ったのか?』って言ったでしょう?
      子供ってウチのタホのことよね。あれはどういう事だったの?」
テイトンポ  「<見立て>を見たからだ。
        <見立て>の大きさから、流されたのは子供だとわかる。
        <見立て>は本来、できれば回収することになっている。
        それができぬほどの緊急事態の中に、シロクンヌはいたということだろう。
        だから子供の安否が気になっていた。」
ヤシム  「見立てって、丸太に石斧を打ちこんだ、あれ?」
シロクン  「そうだ、ああいう事も、テイトンポに教わったんだよ。」
ハニサ  「やっぱりそうだ!昨日あたしが駆け込んだ時、シロクンヌは石斧しか持ってなかったよ。
      近くにあった丸太から、あれを選んで抱えて走り出したの。」
ムマヂカリ  「おれは昨日の夕方、テイトンポと一緒に川に行ったんだ。
        テイトンポが作った魞(えり)の見学に。
        その魞に、石斧が刺さった丸太が引っ掛かっていた。
        それを見たテイトンポが、すぐに出立すると言い出して困ったんだ。
        なんとかなだめて、今日の未明に向こうを出たんだよ。
        昨日、何かあったのか?」
アコ  「凄かったんだよ。昨日ね・・・」
 
ムマヂカリ  「あの崖をなあ・・・
        シロクンヌ、そういう訓練を、テイトンポのもとで、おぬしはやっておったのか?」
シロクン  「まあ、そういう事になるな。12からの4年間について言えば。」
テイトンポ  「シロクンヌ、今のお前は、山の裏側のどれだけが見える?」
シロクン  「大体見えるよ。だが見損じも、たまにあるな。」
クマジイ  「山の裏側を見るとは何じゃ?」
シロクン  「山と言っても小さな山なんだが、
        こっち側だけ見て、見えていないあっち側の様子を推測するって意味だよ。
        崖があるとか、なだらかになってるとか・・・
        15の時のおれは、それが下手くそで、随分ぶん殴られたもんだよ。」
ムマヂカリ  「しかしそれらすべてが、タビンドに必要な業とは言えまい。」
シロクン  「そうだ。そんな事ができんでも、タビンドはできる。
        だがおれにも事情があってな、そこから先の説明は、勘弁してほしいんだよ。」
ムマヂカリ  「そうだな。悪かった。根堀り葉掘り聞いてしまった。
        おぬしがタホを救った英雄だということに変わりは無い。」
ハギ  「母さん、テイトンポに愛想つかされるなよ!
     テイトンポは、ずっとこの村に居てもらわなきゃ。」
クマジイ  「今晩が、勝負じゃな!」
タマ  「鹿をかついで来たんだから、肩や腰が凝ってるはずだよ。
     揉みほぐしておあげな。」
ハニサ  「母さん、がんばってよ!」
アコ  「【鹿をかついで来た男】・・・なんかそそられる言い方だね(笑)」
ハギ  「お前、そうゆうのに弱いな!崖を渡る男とか。」
クズハ  「あなた、肩、凝ってるの?」
 
    テイトンポは真っ赤になって、石のように硬直している。
 
クマジイ  「・・・まあ、大丈夫じゃろな。」
シロクン  「クズハにメロメロだと思うぞ。 
        そうだテイトンポ、雨が上がったら、明日手伝ってもらえんか。」
テイトンポ  「・・・・・」
クマジイ  「完全に、クズハに持って行かれとるのう。
       ほい!気付けじゃ、グイッとやれい!」
 
    テイトンポはグイッとやった。
 
テイトンポ  「ハッ ハッ すまん。助かった!
        手伝うぞ。何をやる?」
シロクン  「森の入口におれの作業場があって、板を取ったりしてるんだ。
        今日の雨で一日遅れたからと思ってな。」
テイトンポ  「承知した。朝、案内してくれ。」
ムマヂカリ  「おれも行くぞ。」
ハギ  「おれも!」
ヤッホ  「おれも!」
アコ  「あたしも行く!」
ヤッホ  「なんでアコまでついて来るんだよ。」
アコ  「いーだろ!ハニサは行かないの?」
ハニサ  「行きたいけど、あたし、今日作った器の仕上げしなきゃいけないの。」
テイトンポ  「ハニサの器はすばらしいな! シカダマシから聞いておったが。」
ハニサ  「シカダマシ?」
ムマヂカリ  「・・・おれのことだ。」
クマジイ  「鹿笛がうまいからじゃろ。」
テイトンポ  「ムマヂカリは言いにくいからな(笑)。」
ハギ  「あはは、そういうことか。なんだか明日が楽しみになって来た!」
ヤッホ  「ワクワクするよな。」
アコ  「明日、晴れるといいな!」

 

 

 

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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村