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5000年前の中部高地の物語

火おこしシロクンヌ流 第28話 5日目④

 

 

          大屋根の下。
 
ヤッホ  「アニキ、待ってたぜ。さあ、ここに座ってくれよ。
シロクン  「ヤッホは鏃(やじり)作りか。お!意外に器用なんだな。」
子供達  「シロクンヌだー。お話聞かせてー。」
クズハ  「ちょうどよかった!シロクンヌ、服が編めたからちょっと羽織ってみて。」
シロクン  「どうだ?おいチビども、似合うか?」
子供達  「カッコいい―。似合うー。」
シロクンヌ  「クズハはいつも、いい匂いさせてるな。」
クズハ  「大きさもちょうどいい感じね。」 ちょっと顔が赤くなってる。
シロクン  「もらっていいのか?大事に着るよ。ありがとう。
        この服もいい匂いがする。クズハの匂いだ。」
ハクズ  「・・・・・」 さらに赤くなってる。
ササヒコ  「おお、以前ハニサが言っていたことも、まんざら嘘ではなさそうだな(笑)。」 
クマジイ  「シロクンヌや、こんどアコをたぶらかして、タレをちびっと貰ろうてきてくれんか。」
シロクン  「クマジイのヒョウタンは人気なんだってなあ。」
クマジイ  「そうじゃ。こう見えてわしは・・・」
アコ  「ほい、差し入れ。焼き松茸だ。クマジイ、聞こえたよ。たぶらかすって何だ。」
クマジイ  「誰かと思えばアコか、めっきり綺麗になりおって。」
アコ  「たぶらかされないよ。でもちびっとだけなら分けてやるよ。」
クマジイ  「アコはやさしいのう!わしはアコが一番じゃと思おておるぞ。」
アコ  「いくら言っても、ちびっとだけだよ。」
ハギ  「みんな集まってると思ったら、やっぱりシロクンヌがいたか。
     シロクンヌ、祭りの前夜にイワナの夜突き大会があるんだ。
     この何年か、ずっとおれが優勝してるんだよ。
     そこでおれと競い合わないか?
     みんなは、おれとシロクンヌ、どっちが勝つと思う?」
全員  「シロクンヌー!」
ハギ  「・・・・・」
 
 
          大ムロヤ
 
シロクン  「お!火おこしの練習だな。」
スサラ(25歳・女)  「そう、雨の日でも、おこせるようになっておかないとね。」
シロクン  「そうだな。火おこしは、子供時分に徹底的に練習させるのがいい。」
タヂカリ(6歳・男)  「シロクンヌもやってみてー」
タホ  「やってみてー」
シロクン  「おお、タホじゃないか。そっちの子は?」
タヂカリ  「僕はタヂカリ。」
シロクン  「タヂカリ?もしかして、父さんはムマヂカリか?」
タヂカリ  「そうだよ。こっちは母さん。」
スサラ  「お話するのは初めてね。私はスサラ、よろしくね。」
シロクン  「ああよろしく。そうか、ムマヂカリには、こんなボウズがいたんだな。」
スサラ  「そうよ。今、6歳よね。」
タヂカリ  「うん。ねえシロクンヌ、ここにあるの使っていいから、やってみて。」  
シロクン  「よーし、じゃあひとつ、お手本を見せてやるとするか。
        おお、この火きり杵、なかなか使い込んであるな。
        待てよ・・・どうせなら、外に落ちてる木を拾って来るか。」
タヂカリ  「雨で濡れてるからダメだよ。濡れた木じゃ出来ないんだよ。」
シロクン  「そう思うだろう?ところがな・・・
        よし待ってろ、すぐ拾って戻って来る。」
 
    少しして、シロクンヌが戻って来た。
    腕くらいの太さの木切れを2本持っている。
 
シロクン  「まず皮だが、濡れているから剥いでしまうぞ。そしてな、ここにこれを当てる。」
        ふところから石を取り出して、木の折れ口に当てた。
タヂカリ  「それは、なに?」
シロクンヌ  「石の楔(くさび)だ。木を割(さ)く道具だな。
        この楔の背中をもう一本の木でたたくと・・・ほら、裂け目が入った。」
タホ  「さけたー。」
シロクン  「まだ割けてないぞ。ここに手を入れて・・・ほら、割けた。
        見てみろ。真ん中は、濡れてないだろう?ここを使うんだ。」
タヂカリ  「ほんとだ!濡れてない!」
スサラ  「ほんとねえ。そうか、旅先で雨に降られた時には、こうやって火おこしするのね。
      でも、これからどうやるの?」
シロクンヌ  「今練習してるのは、キリモミだろう?それが出来たのなら、次はこっちだ。
        キリモミよりも難しいが、丸い棒じゃなくても出来る。
        石の道具を使って、落ちている木ですぐに作れるからな。
        石の道具も無い時は、河原に行って石を拾って岩に投げつける。
        石が割れるか岩が欠けるか分からんが、
        何個かやれば、巧い具合に割れた石が手に入るさ。」
タヂカリ  「アハハ、面白いね。」
シロクン  「でもそういう道具は、長持ちはしないぞ。
        ほら、この割いた片方があるだろう。
        まず、こいつの中心部をこの石でこすって溝を付ける。
        そしてもう片方は、さらに割いて細くする。握りやすいようにな。
        先っぽは濡れてるから、少し折るぞ。そこを削って整える。
        削って整えたこの先っぽを、こっちの溝にこすりつけるんだ。
        出来た。よし、あの柱を使うぞ。
        柱まで移動だ。」
スサラ  「火おこしって、私も子供の頃に覚えたけど、
      やっぱり子供のうちに出来るようにならないと無理よね?」
シロクン  「そうだな。
        体の使い方が、大人になってからではなかなか身に付かんようだぞ。
        だから子供の時に、何通りか覚えた方がいいな。
        よしここでやろう。細い木の握り方は、こうだ。
        おれは右利きだから、右手で普通にこう握る。
        小指側から、削った方を少しだけを出す。
        右手は肩たたきみたいに動かすんだ。小刻みにな。
        だが大事なのは左手だ。溝の木が動いてはダメだからな。
        溝を上にして左手でこっちの端を握る。
        もう片方の端っこを柱の根本に当てる。
        木の先端をしっかり根本に押し付けるんだ。
        両ひざを着いて、左脇を締めて体重を乗せてグッと押し付けるのが大事だ。
        体全部を使ってやるのが、火おこしだ。
        手だけでやろうと思うなよ。
        いいか?大きく息を吸って、止める。
        その止めてる間にケリを着ける!
        初っ端が勝負だ!
        いくぞ!」
 
    息を吸うや否や、シロクンヌは猛烈な勢いで右手を振り動かし、
    削り整えた部分を木の溝に強烈にこすりつけた。
    すると時を待たずに煙が立ち始めた。
    煙はさらに立ち昇り、あっと言う間に火種が出来た。
 
タヂカリ  「すごいすごい!」
タホ  「やったー」 
シロクン  「ほらタヂカリ、これを火口(ほくち)に移して、炎を立てろ。」
タヂカリ  「うん!」
 
    タヂカリは、火種を慎重に火口に落とした。火口は麻縄を削った物だ。
    そして火口でくるみ、息を吹きかける。
    煙がもくもくと湧き出して来たのを見計らって、
    それをさらに枯れ草で包み、グルグル振り回した。
    すぐにボッと音がして、炎が上がった。
    すると周りで大きな拍手が起きた。
    いつの間にか、大勢の人だかりが出来ていたのだった。
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  クマジイ 63歳 長老だが・・・   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本