縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

鬼界カルデラ 第18話 3日目⑤

 

 

 

          ハニサのムロヤ。

 

ハニサ  「ねえ、シロクンヌのこと、いろいろ知りたいの。 聞いたら迷惑?」

シロクン  「迷惑じゃないさ。 何から言えばいい?」
ハニサ  「じゃあ、まず、生まれたところ!」
シロクン  「ヲウミと言って、大きな湖があるところだ。
        トコヨクニで一番大きな湖だ。」
ハニサ  「聞いたことある。スワの湖よりもっと大きな湖が、西の方にあるって。
      遠いところなの?」
シロクン  「遠いな・・・ここからなら、月で半分くらいはかかるんじゃないか。
        ハニサ、ここに御座を広げて、木を削りたいんだが、いいか?」
ハニサ  「いいよ。 何か作るの? もっと明るくしたほうがいい?」
シロクン  「いや、今はこれでいい。 
        気に入ってるんだ、この雰囲気。」
ハニサ  「気に入ってくれてたんだ。うれしい。
      シロクンヌには、どこかに好きな女の人がいるの?」
シロクン  「おらんな。」
ハニサ  「よかった!
      じゃあ他のこと聞いていい? 火の山のこと。」
シロクン  「なんだ。おれのことはもういいのか(笑)。
        火の山の何が聞きたい?」
ハニサ  「さっき海の話が出てたでしょう。 
      それで思い出したんだけど、火の山が怒って、
      朝が来なくなったことがあるって、本当なの?」
シロクン  「本当だ。ヲウミなんかよりももっと西に行けば、今だに語り継がれているよ。
        大昔の出来事なのにな。 
        ヒトもたくさん死んだし、村も根こそぎ潰された。」
ハニサ  「シロクンヌは、そのお話に詳しいの?」
シロクン  「ああ。 詳しい方だと思うぞ。 聞きたいか?」
ハニサ  「うん!聞きたい!教えて。」
シロクン  「まず、空が割れる音が響いたと言うんだ。
        その音は、長く続いたらしい。
        鳥達も騒ぎ、村中、何が起こったのか分からず、ただ震えていたと言う。
        やがて音は止んで、普段と同じになった。 
        しかし翌日、いきなり空から灰みたいなのが降ってきて、それが降りやまない。
        そして空がどんどん暗くなって、降る灰も増え続ける。
        灰と言っても灰色ではなく、赤いんだよ。
        そして昼なのに、あたりは真っ暗になってしまったんだ。」
ハニサ  「怖い! その灰は、熱いの?」
シロクン  「多分だが、熱くは無かったと思う。そういう話は聞かんから。」
ハニサ  「それが、火の山と何か関係があるの?」
シロクン  「火の山が、降らせた灰なんだ。
        ハニサは、トコヨクニのまわりが、海なのは知ってるだろう?」
ハニサ  「知ってる。大きな島が四つあって、今いるここは、一番大きな島なんでしょう?」
シロクン  「そのうちの二つの島が、その火の山の灰でやられたんだよ。
        全滅したと言っていい。
        この大きな島も、西の方はやられた。」
ハニサ  「じゃあ、トコヨクニの半分がやられたの?」
シロクン  「半分はおおげさだが、特に一番南の島がひどかった。
        死に絶えた場所もあったようだぞ。」
ハニサ  「死に絶えたって、それどういうこと?」
シロクン  「生き物が、いなくなったんだよ。
        死んでしまったんだ。
        草や木まで。何もかもが。
        赤い灰しかないんだ。 
        それが固い土になって、見渡す限り、
        空の下には、赤く固い土しか見えないんだよ。
        掘っても掘っても、赤い土以外、何も出てこない。」
ハニサ  「あたし、怖い!」  シロクンヌに抱きついた。
シロクン  「おいおい、彫り物してるんだから、あぶないぞ。 
        怖いなら、別の話にするか?」
ハニサ  「いや!聞きたい! 背中になら、しがみついててもいい?」
シロクン  「いいが、揺すらないでくれよ。」
ハニサ  「あれ?でも死に絶えたんだったら、そんな話は伝わらないんじゃないの?
      なんでシロクンヌが知ってるの?」
シロクン  「逃げのびて、生き残った者もいる。そして後から見に行った者もいるんだよ。」
ハニサ  「そういうことか・・・シロクンヌの背中、あったかい。
      明日も彫り物する?」
シロクン  「ああするよ。」
ハニサ  「あたし、明日から、お話、こうやって聞こうかな。
      あ!あたし、これで器作ろう!」
シロクン  「なんだ器って?これってなんだ?」
ハニサ  「いいの! それより早く、続き聞かせて!」
シロクン  「生き残った者の中には、音を聞いて時を経ず灰が降り始めたと言う者もいた。
        その音は凄まじく、音で気絶した者も出たと言うから想像も付かんな。」
ハニサ  「雷みたいな音?」
シロクン  「おそらくな。でももっと大きな音だろうが。」
ハニサ  「それが火の山が、火を吹いた音なの?」
シロクン  「そうだ。 で、最初の灰の話に戻るぞ。
        南の空が暗くなって、灰が降り始めた。だからそいつらは、北に向かって逃げた。
         そして何人かは生きのびた。
        それからこういう話もある。
        どこか遠くで雷が鳴っていた。青空なのにおかしいなと思っていた。
        次の日は何もなく、普通に過ごした。
        ところがその次の日は、朝が来なかった。
        奇妙に思って外に出ると、辺りは赤い灰で覆われ、
        空からどんどん灰が降って来る。   
        そいつはたまたま北に向かって逃げたから助かった。」
ハニサ  「それって、遠くまで音が届いたってことなの?」
シロクン  「その通りだ。もしかすると、この辺りでも聞こえたのかも知れない。
        そしてその灰は何日も降り続き、何日も何日も、夜が続いたという話だ。」
ハニサ  「その火の山って、どこにあったの?」
シロクン  「それがはっきりとは分かっていないんだ。
        いくら探しても、それらしい山は、見つからなかったという話だ。
        不思議だろう?」
ハニサ  「山が消えちゃったの?
      でもシロクンヌ、今のこの話は、ヲウミのずっと西の人達から聞いたのではなくて、
      シロクンヌが、お父さんから聞いた話なんだよね?」
シロクン  「ハニサ・・・よく気付いたな!」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 

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naganokai.com

ここは、鹿児島県霧島市 上野原縄文の森 地層観察館です。

8番の層が桜島テフラと呼ばれる11,500年前の桜島噴火時の火山灰軽石層。

この層の上で、上野原遺跡で暮らしていた人々の痕跡が見つかります。

7番の層は、9,500年前の竪穴住居跡が見つかる層。

ここにはありませんが、6番の層は、縄文早期中葉の土器が見つかった層。

5番の層は、縄文前期の土器、土偶、耳飾りなどが見つかった層。

2,000年にわたって、人々はこの地で平和に暮らしていました。

そして4番が、アカホヤ地層。

シロクンヌが話している火山灰による地層です。谷間に入り込んでいますよね。

ちなみに3番は腐植土層。2番は4,200年前の桜島火火山灰層。

1番は、発掘調査後の埋め土です。

 

4番のアカホヤ地層、そのもととなったのが、7,300年前の鬼界カルデラの大噴火です。

 

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赤い所が鬼界カルデラ

黄色の所が地層観察館です。

地層観察館は、鬼界カルデラから120㎞離れています。

噴火時には、津波火砕流も発生しています。

オレンジの線の内側で、幸屋火砕流堆積物が出ています。

細長い島が種子島、丸い島が屋久島です。

 
 
縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本