縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第125話 18日目④

 

 

 

          大ムロヤ。続き。

 
カタグラ  「スワのリンドウ村だ。
       そこの母娘がさらわれたのだ。
       美しい女だったらしい。
       娘は10歳だったはずだ。
       おれも狩りの合間に奴らの張り屋(テント)を探したんだ。
       こっちに来ておったのか。
       母娘共に、結局見つかっておらん。」
タカジョウ  「その件ではおれも張り屋探しをした。
        5年前の祭りならおれも来ている。
        まさかそこで、ハニサがさらわれていたとはな。
        ハニサを救ったその男は誰なのか、分かっていないのか?」
オジヌ  「暗くてよく顔が見えなかったんだ。
      でも知らない人だったのは間違いないよ。
      それ以来、お祭りのたびにその人を探してみるんだ。
      今までに、似た人4人に聞いてみたけど、人違いだと言われた。」
シロクン  「シオラムはリンドウ村の件で、ハタレから何か聞かなかったか?」
シオラム  「おれがその件を知っておれば、問い質したのだがな。
       奴らは他でも同じような事をやっておるんだ。」
サラ  「そいつにだって、母親がいるんでしょう?
     自分の母親が、そんな目に遭ったらって思わないのかな。」
シオラム  「サラ、まったくサラの言う通りだ。
       だがそいつはな、13の時に自分の母親を孕ませたと自慢しておったぞ。」
ヤッホ  「ひでー話だ。母親まで無理やりなのか。」
シオラム  「おれもそう思ってそう言ってやった。そしたら母親の方から来たそうだ。
       孕ませたのが13で、もっと小さな時から木の棒を使って、相手をしておったそうだ。
       そいつの母親は、そいつの父親の実の妹だと言っておったな。」
シロクン  「ハタレにはよくある話だ。」
ヤシム  「なんか聞いてて、胸が悪くなるね。」
ムマヂカリ  「そんなのが祭りで覗き回っておったのだろう?
        すぐに気付きそうなものだがな。」
オジヌ  「そいつら小さい袋を持っていて、この編み方が分かるか?って女に聞くんだ。
      女がそれを見ている時、一人が女の相手をしていて、
      もう一人が後ろに回って下から覗く。
      交代して、それを繰り返すんだ。」
ヤシム  「えー! 待って! 私、やられてる!」
ヤッホ  「ほんとか!」
ヤシム  「うん。何か気持ち悪い人達で、息遣いが荒かったから覚えてる。」
ナジオ  「ヤシムはお腹が大きかったぞ。」
ヤシム  「そうだよ。タホがお腹にいたのよ。
      えー! 気持ち悪い。覗かれてたの?」
ヤッホ  「くっそー! ぶん殴ってやりたいよ!」
ヤシム  「あんただってエミヌのを覗こうとしたんでしょ!」
ヤッホ  「あれは、同意の上でじゃないか。」
ナジオ  「まあまあ、抑えて。
      オジヌに聞きたいんだが、ハニサがさらわれそうだと知っていたのか?」
オジヌ  「そこまでは知らなかったよ。
      ただ、ハニサに付きまとう気でいるとは思ってた。
      カイヌから、ハニサの家族の事を聞き出していたからね。」
シロクン  「だから祭りの日に、警戒していたんだな?」
オジヌ  「うん。朝から探し回っていたんだ。
      そしたら昼くらいに奴等を見つけたから、とりあえず後をつけたんだ。」
ヤシム  「私が覗かれてるのは見た?」
オジヌ  「おれが見たのは、よその村の女が覗かれてるところ。
      二人くらい覗いたあとに、クズハを探し始めたんだ。」
ハニサ  「母さんのことは、知ってたの?」
オジヌ  「顔は知らなかったと思う。
      居場所を聞いて、あれがクズハだって言い合ってた。
      そのあとクズハを覗く話をしてたから、そいつらの前に行って、
      いい加減にしろ!と言ってやったら、腹を殴られた。」
エミヌ  「無茶よ。大人を呼ぼうとは思わなかったの?」
オジヌ  「大人が出てくると、あいつらは言い逃れをして、有耶無耶になってしまうと思ったんだ。」
ムマヂカリ  「オジヌはどうしようと思っておったのだ?」
オジヌ  「おれは、マツタケ山であいつらがハニサにした事が許せなかった。
      だから何か決着を付けたかったんだけど、おれ、弱かったから・・・
      どうしていいか分からずにいた。
      殴られてあいつらを見失って、次に見つけたのがハニサのムロヤの前だったんだ。
      入口の様子とかを調べている風に見えた。」
ナクモ  「怖い!」
オジヌ  「それでおれは、石斧を取りに、作業小屋に走って、戻ったらもうあいつらは居なかった。
      石斧を取りに行ったのがいけなかったんだ。
      その時、体が石斧だったらいいのにと思ったよ。
      とにかく、ムロヤまで調べた奴を、そのままにはしておけないでしょう?
      だからおれは、石斧でぶちのめす気でいたけど、
      今思えば、失敗して、逆にやられてたと思う。」
ナジオ  「しかし11歳でそこまでやれば大したものだ。」
オジヌ  「でもマツタケ山では何もできなかった。」
ハニサ  「そんなこと無いよ。オジヌはあいつらに怒ってくれたじゃない。
      ハニサを下せ!って。
      オジヌがいなければ、きっともっと酷い事をされてたんだよ。」
シロクン  「シオラムは曲げ木を習うんだろう? オジヌも一緒にやればいい。
        そして、アコから体術を習えばいい。」
カタグラ  「それがいいな。アコは強いからな。」
シロクン  「気が向けば、テイトンポも何か教えてくれるかもしれんぞ。
        テイトンポの爪先蹴りは、腿の太さの木を折るからな。」
オジヌ  「凄い! テイトンポが帰ってきたら、頼んでみるよ!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。