第150話 23日目③
曲げ木工房。夕刻前。
テイトンポ 「アコ! 帰って来たぞ。魚を獲って来た。焼いてみんなで食うか。
オジヌ、手伝ってくれ。ワタはスッポンの餌にするからな。」
アコ 「お帰りなさい。サチ、きれいなお花だね。」
サチ 「はい。これアコへのお土産。」
アコ 「わー! ありがとう! これ、全部つながってるんだね!」
サチ 「こうしてね、頭にかぶるの。」
アコ 「ナデシコね。こう? 水に映して来る。」
テイトンポ 「おお! 綺麗だぞ。」
アコ 「サチ、ありがとう! とっても綺麗だね。」
ハニサ 「薄紫色が、アコにピッタリだよ。」
オジヌ 「アコじゃないみたいだ。」
アコ 「どういう意味だよ。」
シロクンヌ 「アハハハハ、まったくだ。
一緒に川に入った時にそれをかぶっていたら、反応してしまっただろうな。」
ハニサ 「もう! シロクンヌ! 変な事言わないの。」
テイトンポ 「こらシロクンヌ、アコに変な気を起こしたら承知せんぞ。
アコはおれの大事な宝物だ。」
シロクンヌ 「分かってるよ。冗談の通じないオヤジだな。」
アコ 「ハニサ、あたし、ふわふわして来ちゃった。」
ハニサ 「アコは愛されてるね。」
ヤシム 「あー、歩き疲れちゃった! タホ、ただいま。いい子にしてた?
あ! サチが作ってたの、これね! アコ、とっても綺麗だよ!」
シオラム 「おや? アコか! アコは根が美人だから、ナデシコが似合うぞ!
おっとクマジイ、今下すからな。アコが綺麗だぞ。」
クマジイ 「よっこらしょ。シオラム、世話になったの。
どらどら、ほう! べっぴんさんじゃなー!
よう似合おとる。ナデシコ美人じゃ!」
アコ 「何だよ、みんなで寄ってたかって。照れ臭いだろ。」
夕食の広場。
ササヒコ 「あの洞窟こそ、天からの授かり物だ。
宝の隠し場所だと言うが、あの洞窟が、宝だな。」
ヌリホツマ 「4体の御遺骨は丁重に弔って、石の道具と一緒に墓を造って埋めた。
今あの地に、ケガレは一切ないぞよ。」
クマジイ 「猿の悪さが心配じゃがな。
タカジョウに言うて、頭猿(かしらざる)をシップウに狩らせたがいいぞい。」
ハギ 「石ツラ道の岩室は、食品保存に最適だよ。
昨日サチが狩ったウサギで実験してるけど、まだ目玉も全然傷んでいない。
肉が傷み始めるのは、相当先な気がする。
器に張った水は、凍ってはいないけど凄く冷たい。」
ナクモ 「栗の保存にもいいでしょう? 真っ暗だから芽も出ないし、虫も湧かないと思うよ。」
ハギ 「搗栗(かちぐり)じゃなくてナマ栗で保存できれば、いつでも友蒸しが食えるぞ。」
シロクンヌ 「そりゃあいいな。」
テイトンポ 「奥の洞窟だが、カタグラが落ち掛けたという亀裂は、
丸太のいいのがあったから、それでふさいだ。
だが手の施しようの無い危険個所も有るには有る。
安全な場所で遊ぶ分には問題は無かろうが、
どういう扱いにするかは、今後の課題だな。」
シロクンヌ 「入口の洞窟については、どう思った?」
テイトンポ 「シロクンヌの抜いた風穴だが、あれは大正解だ。
定期的に、上の地上部分の養生をしておけば、崩れる心配は無さそうだ。」
シオラム 「風穴の真下で大きく火を焚いてみたが、煙たくはならんし、
昼ならそれだけで洞窟の大部分が明るくなる。
それから水場の周りだが、
地面に大量の水を流してみたが、浸みていって水溜まりも出来ん。
なるほどあそこなら、湯浴びには持って来いだぞ。」
ササヒコ 「あとは、器がたくさん必要になるだろうな。
せっかくだから、ハニサに制作を頼みたいのだが、どんなもんだろうな?」
ハニサ 「形成だけなら毎日一個の割合で出来るよ。焼成は誰かにお願いしなきゃだけど。
本当は洞窟に粘土を持ち込んで、あっちで作りたいけど、
シロクンヌが工房の増築をやっているから、あたしもこっちにいたいの。」
シオラム 「では焼成はおれが受け持つか。シオ村では結構やっていたから。
工房の焚き火でやるよ。」
ハギ 「焼き上がった物から、おれが毎日運べばいいね?」
ササヒコ 「では、それでお願いするか。あとは女衆にムシロ編みを頼んで・・・」
ヌリホツマ 「神坐はあったが良いぞ。
場所は入口入ってすぐ左奥の、石の道具が見つかった辺りじゃな。
石じゃのうて、クリの木がよいぞ。」
ナクモ 「カタグラが粗削りをして、私が仕上げに磨けばいいのかな?」
ヌリホツマ 「そうじゃ。仕上げ磨きはおなごの手でするんじゃ。」
テイトンポ 「キノコ樹を見たが、見事なもんだな。こんなでっかいマイタケが生えておった。
あれはいつ食うんだろうな?」
シロクンヌ 「カタグラの鹿と一緒に、木の皮鍋にしたらいい。」
テイトンポ 「おお! その手があるな!」
ササヒコ 「木の皮鍋とは、聞かん言葉だが?」
シロクンヌ 「土の器は縦に長細いだろう? だから木の皮で、平ぺったい鍋を作るんだよ。
使い送りだがな。(使い捨てとは言わない。)
村全員が食べるとしたら、7個あればいいかな。
7ヶ所で火を熾して、その火に鍋をじかに掛けるんだ。
7~8人で鍋を囲んで、煮立った物から食うんだよ。
空いたところに、また食材を入れる。」
サチ 「父さんは、木の皮で鍋を作るのが、すごく上手だよ。」
ハニサ 「ね? スワで食べたら、美味しかったよね?」
クマジイ 「面白そうじゃな。焼き石でやる焼肉の鍋版じゃな?」
ヌリホツマ 「趣向を変えて、ここじゃのうて、よそで食べてみても良かろうの。」
ササヒコ 「タマー、ちょっとここに来てくれ。」
ヤッホ 「アコは、そうやって女らしくしてたらいいんだ。」
エミヌ 「うん、綺麗だもんね。絶対モテると思うよ。」
アコ 「そうかな。」
ナジオ 「5年前は、よく遊んだよな。」
アコ 「そうだったね。楽しかった。」
ヤシム 「あんた達、デキてたんじゃないの?」
ナジオ 「ところが、手も握って無いんだ。」
アコ 「いきなり帰るって言い出したから、あたし泣いたんだよね。」
ナジオ 「うん、急に帰る事になったからな。」
アコ 「あたし、あの日、あげるものが有ったんだよ。」
ナジオ 「そうか、くそハタレのせいで、もらい損ねたんだな。
でも、アコとは楽しい思い出がいっぱいあるよ。」