第183話 33日目⑥
夜の広場。遅い食事。
テイトンポ 「シカダマシ、今日の武功第一等はホムラだな。
この肉も、ホムラに食わせてやれ。」
イナ 「ホムラって、賢いのね。」
ムマヂカリ 「おそらく村の入口で、おれが帰って来るのを待っておったんだ。」
シロクンヌ 「吠えずに走って来るところが凄いな。」
ササヒコ 「ホムラが知らせに行ったのか?」
イナ 「そうなの。ホムラとの付き合いが浅いあたしにも、異常が伝わって来たわよ。」
アコ 「オオカミの時も、ホムラのお手柄だったね。」
シロクンヌ 「そうだったな。ホムラがムロヤの外にいて、中にはイナがいる・・・
おれも安心して、旅に出られるよ。」
ハニサ 「イナって、あんなに強いんだね。
動きが速すぎて、コマみたいだったでしょう?
こっちで回転してると思ったら、もうあっちで回転してるんだもん。」
アコ 「コマが壁に触れるとパンッとはじくだろう。あんな感じだったな。」
イナ 「ホントにコマと同じ。突いた反動を利用して移動するのよ。」
ササヒコ 「しかしイナには礼を言わねばならんな。
強いのは分かるが、勇気と機転の良さに、感心したよ。」
ヤシム 「ホントにそう。私、あの時震えてたんだもん。
ヤッホが落ち着いてたから、なんとか立っていられたんだけど。」
アコ 「ヤッホもカッコ良かったね。」
ヤッホ 「アニキが横に居たからだよ。」
イナ 「ねえコノカミ、明日温泉に連れて行ってよ。」
ササヒコ 「温泉か。それはいいが・・・二人でか?」
イナ 「そうよ。あたし、舐められた所が気持ち悪いの。」
シロクンヌ 「アッハッハッハッハ。イナは相変わらずだな。サバサバものを言う。」
ハニサ 「シロクンヌ、笑っちゃだめだよ。あたしの身代わりになってくれたんだもん。」
イナ 「いいのよ気にしないで。ああいうの、結構慣れてるから。」
ヤッホ 「父さん、行って来ればいい。蹴られた打ち身にも良いんじゃないか?」
ササヒコ 「そうだな。では岩の温泉に行くか。
身代わりで思い出したが、身代わり人形が無事で良かった。
奉納は、明日の夕刻前だ。明日の夜は、アコの魂写しの儀だな。」
シロクンヌ 「奉納は飛び石の向こうでやると聞いたが。」
ササヒコ 「そうだ。そこで火を焚く。
ハギとサラは洞窟でもう一泊ということだが、奉納の件は心得ておるのだろう?」
ムマヂカリ 「しまった! ギラのエサやりを頼まれておった!
サラにどやされる。」走って行った。
ハニサ 「アハハ。うん。明日の朝に、向こうを出るって。」
イナ 「岩の温泉で、お昼を食べたら間に合わない?」
ヤッホ 「準備はおれ達でやるから、父さんは奉納に間に合えばいいよ。」
ササヒコ 「そうか。すまんな。それなら、昼に出れば間に合う。早昼だな。」
イナ 「それなら、朝早く出ましょうよ。」
ササヒコ 「そうするか。途中で狩りも出来るしな。」
イナ 「わー、楽しみ。」
テイトンポ 「シロクンヌとイナ、ちょっといいか?」
テイトンポ 「前に言っておった6人のハグレ、あれはいつからやれそうなのだ?」
イナ 「フジからは、12人で来る事になっているわ。
9人は手伝いね。もう到着する頃よ。
ヲウミの3人が到着するまでに、二人一組になって、張り屋の準備をするの。
赤、黒、赤の目印を用意するのに手間取って、あたしの方が先に出たのよ。」
シロクンヌ 「ヲウミはおそらく、そろそろ出立だろうな。」
テイトンポ 「今日のハタレだが、黒切りの里の向こうで光の子の噂を聞き、
そこから4日掛けて来たと言っておった。」
シロクンヌ 「ウルシ村の名とハニサの名も、そこで聞いたと言っていたな。」
テイトンポ 「来るとは思ったが、思いの外、早かったと思わんか?」
イナ 「それに、7人って多いわね。
あたしが去年、息子とヲウミからフジまで、ハタレの出そうな所を選んで移動したの。
その時は3回出たけれど、3人、4人、3人だったわよ。」
テイトンポ 「あいつらも普段は、3人と4人らしい。
最初に飯を食っていた3人と、残りの4人だな。
普段は付き合いは無いが、存在は知っていて、
村を襲うために一緒になったようだ。」
シロクンヌ 「3人の方が、奴等の中では、格上だったんだな。
奴等、分け前が減るから、普段は大人数で組みたがらんのだ。
早かったのは、奴等がアマカミの件を知らなかったからだよ。
だから、7人でどうとでも出来ると思って来たんだ。」
テイトンポ 「なるほど、そうだったな。
ウルシ村のハニサという美人が光の子を宿した・・・
そこまでの噂で動いた訳だ。」
イナ 「そう言う事か。
光の子がアマカミ候補だと知っていれば、7人では来なかったと言う事ね。」
シロクンヌ 「おれは聞いてみたんだよ。もっと集められたか?と。
そしたら何て言ったと思う?
ハニサを回すのは、7人が限界だ。そう言ったんだ。そういう奴等だよ。」
テイトンポ 「ハニサ一人が目当てなら、大人数にはならん訳だな。」
シロクンヌ 「ただし、ハニサの腹が大きくなれば別だと思っている。
美人の腹を裂いて光の胎児を取り出し、それを刻んでみんなで食うとなれば、
かなり集まる可能性があるんじゃないか?
だからおれは、その頃には戻っていたいんだ。」