第185話 34日目①
朝の広場。
サチ 「私、大ムロヤで、身代わり人形を見て来るね。」
オジヌ 「見納めだな。おれも見て来よう。」
ハニサ 「サチの荷物を整理したら、いっぱい服を持ってるの。
ヤシムが作ったんでしょう?」
ヤシム 「そうよ。最初は、毛皮二つだけだったからね。部屋着もあるでしょう?」
ハニサ 「うん。可愛いのがあった。」
ヤシム 「サチは何着せても似合うから、張り切ったのよ。」
シロクンヌ 「ヤシムはこういうの、得意だもんな。ヤッホは昨日から来たのか?」
ヤシム 「うん。一緒に暮らす事になった。今、まだ寝てる。タホも。」
ムマヂカリ 「ヤッホの奴、昨夜は張り切ったんだな(笑)。何回だったんだ?」
ヤシム 「もう! 言えないよ、そんな事。」
シロクンヌ 「ハハハ。共通の狩り場に行けば、シカ村の誰かには会えるのか?」
ムマヂカリ 「おそらく会える。
丘の上に松の巨木があって、大きく張り出している枝が遠くからでも見える。
お互い、連絡したい事が有る時は、その枝にムシロを掛けるんだ。
昨日の事は、おれがシカ村の者に伝えておくよ。
アマゴ村に伝わるのは、明日の夕方だな。」
ヤッホ 「ひゃー、寝坊した。アニキ、おはよう。
おれ、昨日の事を、洞窟に伝えなきゃいけないから、もう行くよ。」
シロクンヌ 「朝メシは?」
ヤッホ 「グリッコ食べながら行く。戻ったら、奉納の準備するからさ。
じゃあヤシム、行って来るね。」
ヤシム 「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
シロクンヌ 「仲が良さそうじゃないか。」
ヤシム 「うん。優しくしてくれる。イナは温泉に行ったの?」
シロクンヌ 「そうなんだよ。
あのな、まだ暗いのに、目が覚めたと言っておれを起こしてな、
杖の稽古に付き合えと言い出すんだ。
温泉に行くと思うと、嬉しくてじっとしておれんと言ってな。
それから、ここで二人で稽古だ。たまらんぞ。」
ヤシム 「アハハハ。」
ハニサ 「二人共、汗びっしょりで帰って来たんだよ(笑)。
あたしも身代わり人形にお別れして来よう。」
曲げ木工房。
シロクンヌ 「よし! 骨組みは、明日、仕上がりそうだな。
サチ、もう一度ヒノキの皮剥ぎに行くぞ。」
ハニサ 「サチ、ちょっと待って。
ミツに聞いた飛び越しの粘土版が出来たから、確認して。
間違ってなければ、灰で乾かすから。」
テイトンポ 「お、出来たのか? 穴の配置はどうなってる?」
アコ 「ドングリが40個要るんだよね?
これが穴開けに使ったドングリなの?
ハニサ、借りるよ。これと同じくらいのを拾えばいいんだな。」
サチ 「お姉ちゃん、合ってると思うよ。」
シオラム 「飛び越しの粘土版? 何だそりゃ。
この三つがそうか? 何に使うんだ?」
オジヌ 「飛び越しって何? そういう技が有るの?」
曲げ木工房。昼食。
シオラム 「これはハマるな。覚えて、シオ村でも作るか。」
ハニサ 「シオラム、意外に強いね。」
シオラム 「意外とは何だ。おれはこういうのが大好きなんだぞ。」
ハニサ 「自分のドングリだけを4回連続で飛び越すと、もう一回出来るでしょう?
ミツが言うには、その4連がキモらしいよ。
そうさせない様に邪魔したり、いろんな手が有るんだって。
それからね、自分のドングリ20個のうち、11個を相手側に入れれば勝ちでしょう?
入れなくてもいいドングリが9個あるから、
その9個をどう扱うかが作戦の分かれ目だって。
9個で相手のじゃまをするとか、防御を無視して進軍だけに使うとか、
防御3個で進軍17個とか、なんかいろんなやり方があるんだって。」
シオラム 「そうだな。この飛び越しってのは、絶対、奥が深いぞ。」
テイトンポ 「くそっ! 一手負けか!」
アコ 「やったー。」
オジヌ 「ここで、こっちから行けば良かったんじゃないの?」
アコ 「その時は、こうだよ。」
オジヌ 「あ! それがあるのか。」
シロクンヌ 「ハニサ、同じ物を、あと二組作ったらどうだ?
一組は、洞窟に持って行けばいい。」
テイトンポ 「いや、三組作ってくれ。一組はムロヤに置いて、アコと徹底的に勝負する。」
アコ 「アハハ、勝ってやる。」
ハニサ 「どうせだから、もっと作ろうか。粘土はあるし。」
サチ 「ミツ、早く来ないかな・・・」