縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第216話 45日目①

 
 
 
          朝の広場。
 
ハニサ  「ナジオはスワに行くの?」
ナジオ  「ああ。父さん達を見送ったら、テミユとスワに戻る。向こうで舟を作るんだ。」
テミユ  「時々、遊びに来るわね。」
テイトンポ  「また飛び越しをやろうな。当面のおれの目標はテミユに勝つ事だ。」
タマ  「とろろがすり上がったよ。熊を担いで行く四人はズズっとやって行きな。
     シオラム、元気でね。これからは頻繁に来るんだろう?」
シオラム  「そのつもりだ。来るたびに、ここらは変わっておるんだろうな。」
ムマヂカリ  「ん?このとろろ、味付けが違うな・・・」
エミヌ  「へへー、美味しいでしょ?とっておきを使ったんだよ。」
ムマヂカリ  「テイトンポ、ちょっと食べてみてくれ。何が使ってあるか分かるか?」
テイトンポ  「どれ・・・おお、旨いな。これはな・・・
        イノシシだ。耳だろう?」
エミヌ  「凄い!当たり!イノシシの耳の汁から採った煮凝り。
      すり下ろす時に加えたの。よく分かったね!」
ササヒコ  「ほう。旨いのは分かるが、言われてみれば、確かにイノシシだ。」
シオラム  「山イモとイノシシか。山の味覚だな。旨い。」
ヤッホ  「エミヌは腕を上げたね。
      あれ?アニキが背負い籠をあんなにたくさん持って来たけど・・・
      バンドリまでしてる。」

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         バンドリ
オジヌ  「なんか見た事ない背負子を背負ってない?」
ハニサ  「暗い内に起きて、作業小屋に行ったよ。」
イナ  「クンヌ、その背負子、なに?」
シロクン  「おはよう。やっと出来た。丈(たけ)が膝(ひざ)まであるだろう?
        普通は腰までだよな?」
テイトンポ  「籠を積み重ねるつもりだろう。」
シロクン  「そうだ。籠のテッペンに竹板を何枚か載せて、その上にまた籠を載せる。
        縛っておけば、5段くらいイケルんじゃないか?」
ササヒコ  「また気合いが入っておるな。」
シロクン  「ブナの実組が、オジヌ、カイヌ、サラ、あとはおれとサチとミツだ。
        今日も籠10個満載にしようと思ってな。内、2個は、クルミだ。」
ヤッホ  「凄いな、アニキ。」
タガオ  「ミツにも背負わせてくれよ。」
シロクン  「ああ、そのつもりだ。」
ヤシム  「小さいバンドリがあるから、取ってくるね。サチの分も。」
オジヌ  「おれも重ね積みするから、背負子と籠を取って来る。」
カイヌ  「僕も。」
イナ  「気合いが入ってるわね。サラも行くの?」
サラ  「うん。ブドウ虫の様子を見て来る。
     父さん、いたら何匹か捕って来るから、釣りをやってみたら?」
テイトンポ  「おお頼む。ハギと釣り糸を垂らしてみるか・・・」
ハニサ  「あたしもやってみたい。」
エミヌ  「私も!」
タマ  「あたしもやってみたいねえ。」
サラ  「そんなら、いただけ捕って来る。」
シロクンヌ  「よし!じゃあ出発するか。」
イナ  「クンヌ、朝ごはんは?お腹減ってないの?」
シロクン  「干し肉をしゃぶりながら作ってたから大丈夫だ。」
ササヒコ  「わし達も行こう。」
タマ  「飛び石まで見送るよ。」
 
 
          下の川の河原。
 
シロクンヌ  「よし、一度休憩するぞ。
        あの辺りにクルミの樹がたくさんある。帰りにあそこでクルミ拾いするか。
        この先に竹林がある。そこで竹を一本伐って行くんだが、ミツ、鉈(なた)が出来るか?」
ミツ  「出来るよ。」
 
    ミツは河原を歩き回り、石を一つ拾った。こぶし三つ分くらいの大きさだ。
    次にそれよりも大きくて細長い石を見つけては、その石とぶつけて音を聞いていた。
    何度かそれを繰り返し、一つの石にたどり着いた。ヒジから手首まで位の長さの石だ。
    そしてその石を、助走をつけて近くの岩に投げつけた。
    岩にぶつかって、石は縦方向に割れた。
    その片方を、もう一度岩に投げつけた。また縦方向に割れた。
    ミツは大きい方の破片を拾った。
 
ミツ  「シロクンヌ、これ、鉈にならない?」
シロクン  「見せてくれ・・・
        オジヌ、見てみろ。凄いぞ。」
オジヌ  「ホントだ!ここに草でも巻けばニギリになるね。それで鉈の完成だ。
      あっという間に作っちゃった!」
サラ  「こっちの破片、これ皮切りに使えるよ。竹を割くのにもいい。」
サチ  「ミツ、凄いね。石が分かるの?」
ミツ  「うん。なんとなく分かる。
     石同士をぶつけた時の音とか手に来るシビレとかで。
     割れやすさとか、割れる方向とかが。」
カイヌ  「最初に拾った石は何?」
ミツ  「あれはね、なんとなくだけど、真ん中ら辺よりも堅い石。
     真っ二つに割れにくい石。
     あれと叩き合って、音とかを比べて選ぶの。」
 
 
          竹林。
 
シロクン  「この一本を伐るか。
        きーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・」
 
オジヌ  「この太い竹が、結構速く伐れたよ。
      石、どうなってる?」
シロクン  「これと言って、変わりは無い。これなら5本以上伐れそうだ。
        枝を掃ってみるぞ。
        気持ちがいい様に掃えるな・・・
        ハカマ(フシの少しだけ出っ張った部分)もこの通りだ。簡単に削れる。
        オジヌ、そっちを持っていろ。この長さで切る。」
オジヌ  「凄い!今度は3発で切れた!」
シロクン  「コツを覚えたからな(笑)。
        サチ、旅にミツを同行させて正解だったぞ。ミツのこの業は使える。
        おれ達は、随分ミツに助けられるぞ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。