縄文GoGo旅編 第5話 2日目②
リンドウ村の入口。
タカジョウ 「あそこには3人住んでいたらしいが、どうだった?」
シロクンヌ 「駄目だ。3人共殺されて、この先の濁流の川に流されたようだ。
酷い話だぞ。
昨日の夕方、6人であのムロヤの前を通りがかったらしい。
そしたらちょうどムロヤの前に爺さんがいて、
その爺さんからアナグマの肉を分けてもらったと言うのだ。
食べきれんから持って行けと。
ムロヤの先の森でその肉で宴会をして、そのまま寝た。
だが夜中に強風が吹いてきて、これは台風だと思い、
降られん内に移動しようとムロヤまで戻った。
泊めてくれと頼んだら、あっさり入れてもらえた。
中に婆さんと爺さんの妹がいたから、二人を犯した。
爺さんは縛り上げ、二人を犯す様子を見せつけた。
台風は、人を殺すには好都合だと言っていた。
川に流せばバレんからと。
ハタレだ。恩を仇で返し、女と見れば犯し、簡単に人を殺す。
おれ達も最初から殺すつもりだったようだ。川に流せば分からんぞと。」
タカジョウ 「奴らは?」
シロクンヌ 「爺さん達の縁者がいてな、引き渡せと言われた。
少し離れた所にもう1軒ムロヤがあって、そこに住んでいる。
朝、見に行ったら爺さん達がいないから、ずっと探していたそうだ。
そいつがまた大男なんだ。
縄をほどいて一人ずつ立たせ、抱え上げては樹に突進して背骨をへし折っていた。
泣きながらな。」
タカジョウ 「そうか。気の毒になあ。
やつらはどこから来たんだろうな?
情報が遅れておらんか?アマカミやミヤコの件を知らんのだろう?」
シロクンヌ 「それなんだがなあ・・・
どこから来たのかがよく分からんのだ。
いや、隠しているのではなく、何と言うのか・・・
何日も道に迷っていた様だぞ。
一組ずつ聞き出そうと離れた所で尋問したのだが、
そこで二人が言い合いをしだす始末だ。
10日前に出た、いや半月前だった、
覚えていられるよりも前に出たと言う者までいた。
どっちの方角から来たか?と聞いても、今はこっちから来たとしか言わん。
山に登って下りたら、方角なんか分からんと言う。
元の棲みかに帰れるか?と聞いたら、帰れるやつなんかいるものかという勢いだ。
三日歩けば、元居た場所に戻れないのが普通だろうと言われたぞ。」
タカジョウ 「暗澹(あんたん)たる話だなあ・・・
そうだ、コノカミがな、泊まって行ってくれと言っていたぞ。」
シロクンヌ 「そうか、では厄介になろうか。サチとミツは?」
タカジョウ 「炊事の手伝いをしてる。
この村の娘と仲良くなって、3人で眼木を掛けてハシャギながら(笑)。」
シロクンヌ 「ははは。」
タカジョウ 「おれはシップウと獲物を獲って来るよ。」
シロクンヌ 「うん。村のあちこちが台風でやられているな。
おれは修理を手伝うか。」
タカジョウ 「シロクンヌ、ここだぞ、リンドウ村。
ほら、5年前、マツタケ山に住み着いたハタレが、母娘をさらった村だ。
ここは、スワの一番外れだそうだ。」
スズヒコ(65歳・男)「おーい。
おぬしがシロクンヌじゃな。話はいろいろ聞いておる。
わしはこの村のカミのスズヒコじゃ。
ご覧の通りのちっぽけな村じゃ。
何のもてなしも出来んが、泊まっていっておくれ。
ただな、この下の温泉だけは自慢じゃぞ。」
シロクンヌ 「これはコノカミ、高い所から御無礼する。
これと言った返礼は出来んが、壊れた建物を修理しようと思っている。
勝手にだが、この屋根の修繕をしておるぞ。
破損を見たら、直さずにはおれん性分なんだ。
ここは一つ、気のすむまでやらせてくれ(笑)。」
スズヒコ 「ははは。それは助かる。若者の少ない村での。」
シロクンヌ 「ん?・・・やっぱりイノシシか。
コノカミ、向こうからタカジョウが、イノシシを背負って帰って来るよ(笑)。」
リンドウ村。スズヒコのムロヤ。夜。
スズヒコ、タジロ(21歳・男)、シロクンヌ、タカジョウの4人がいる。
スズヒコ 「本当なら歓迎の宴を張ってもてなしたかったのじゃが、
質素な夕食になって申し訳なかった。」
シロクンヌ 「何を言う。おれ達は、あれで十分だったよ。なあ?」
タカジョウ 「ああ、こんな時だ、宴などという気にはならん。
最初は、サチが来たと言って、みんな大喜びだったが。
イノシシは、明日以降、村のみんなで食べてくれ。」
スズヒコ 「すまんのう。マツジイ達3人があんな事になってしまったからのう。
村としても、弔いをせにゃあならん。
たまに行き来をして、良い付き合いをしておったんじゃ。」
シロクンヌ 「ご遺体が見つかったのだけが救いだな。
シップウのお手柄だ。」
タカジョウ 「オロチの一件で、ミツを見つけただろう。
だからイノシシ狩りの後、ふとシップウなら見つけるかも知れんぞと思ってな。
それでタジロを誘って川に出た。」
タジロ 「あれは驚いたなあ。
タカジョウが、地に臥せってくれと言うからその通りにした。
シップウ。この川に、こうやって臥せっている者がいる。
それを探して見つけたら、そこに舞い降りろってタカジョウが言ったんだ。
そしてシップウを放った。
シップウは言の葉(ことのは)が分かるのか?」
スズヒコ 「すぐに見つかったのか?」
タカジョウ 「舞い降りるのは早かった。
かなり下流だったが、行ってみたら大木が川に向かって倒れておって、
その大木が、3人を受け止めてくれていた。」
スズヒコ 「ふむ、樹の世話が好きな男じゃったからのう。
イノシシの方はどうやって狩ったんじゃ?」
タカジョウ 「おれが頭に投げ斧を当てて、そこに急降下してきたシップウが爪の一撃を入れた。
その後、もう一発、投げ斧を当てて仕留めた。」
シロクンヌ 「何だタカジョウは投げ斧を使うのか?
今度見せてくれ。」
タカジョウ 「ああいいよ。」
タジロ 「おれも見たい!明日やってみてくれよ。」
タカジョウ 「分かった分かった。そう身を乗り出さんでもやるよ(笑)。
何だったら、コツを教えようか?」
タジロ 「ホントか!教えて欲しい!
すぐに出来るようになるのか?」
タカジョウ 「タジロなら、的に当てるまでは、そんなにかからんと思うぞ。
狩りで使える様になるまでには、相当練習が必要だがな。」
タジロ 「うん、練習する。」
タカジョウ 「ちょうど風倒木が多いから、それを獲物に見立てて、
走りながら投げても当たるようにするんだ。
明日見せてやるよ。」
タジロ 「うん。そうか、走りながらでも投げるのか。」
スズヒコ 「ハハハ。タジロはタカジョウにぞっこんのようじゃ。
時に、台風はどこでやり過ごされた?」
シロクンヌ 「そうだ、コノカミ、頼みがある。
この少し先、湖に向かう方向だが、3本の樹がある。
その樹のお陰で、おれ達は助かったんだ。
明日行って、お神酒を捧げようと思っているが、
その樹は、伐らないでやって欲しいんだ。」
スズヒコ 「分かった。明日はわしも同行させておくれ。
御神木として村で祀る事にしようかの。」
その時、外で、コノカミ、準備ができたぞーと声がした。
スズヒコ 「下の温泉のかがり火の用意が出来たようじゃ。
みんなでくつろいで来ておくれ。
その後お二人は、またここに来て欲しい。
寝所は、このすぐ隣のムロヤを用意した。」
タジロ 「案内するよ。荷物は隣のムロヤに置けばいい。」