縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第130話 19日目④

 

 

 

          夕食の広場。

 
ナジオ  「待ちに待った熊肉だ。
      油煮という物を食べてみたかったんだ。」
ハギ  「おれは肉の中では熊肉が一番好きだな。」
ヤッホ  「アコが帰って来て良かったよ。
      おれはアコのタレで食う熊が好きなんだ。」
カタグラ  「ぷるぷる煮をこんなに取り分けてくれたのだが、よかったのかな?
       足は一つ、潰れておったのだろう?」
クマジイ  「足は潰れとりゃあせんぞ。やられておったのは足首じゃ。」
ヤッホ  「ヤシムはどうしたんだい? 今日はなんか艶(あで)やかだな。」
ヤシム  「似合う? サチがくれたんだよ。」
ムマヂカリ  「ヤシムはこうして見るといい女だよな。」
ハギ  「ヤシムは美人だよ。
     酔っ払うと手に負えんがな。」
ヤシム  「私もまだまだ捨てたものじゃないでしょう?」
エミヌ  「ヤッホはヤシムにベタ惚れだったんでしょう?」
ヤシム  「私がヤッホに惚れてたんだよ。
      年下で可愛かったもの。」
ヤッホ  「なに言ってるんだ。おれが惚れてたんじゃないか。」
ヤシム  「だっていつも私から誘ってたでしょう?
      ヤッホはちっとも誘ってくれなかったじゃない。」
ヤッホ  「おれ、誘ってもよかったのか?」
ヤシム  「当たり前でしょう。何言ってるのよ。」
 
クズハ  「あなた、ガツガツして食べるから、ポロポロこぼれていますよ。」
テイトンポ  「このシジミグリッコの夢を見てな。
        こうやってガツガツ食う夢だった。
        アコのタレの熊肉と、このグリッコはよく合うぞ。」
アコ  「グリッコが配給されててよかったね。
     向こうでもグリッコの心配ばっかりしてたんだよ。」
クズハ  「みんなから取り上げたんでしょう? カタグラが泣いていたわよ。
      今日来た人達は、あなたの知り合いの方?」
テイトンポ  「シロクンヌの関係者だな。偶然一緒になった。
        タカジョウが見当たらんが、来ておらんのか?」
アコ  「大ムロヤだと思うよ。
     コノカミやさっきの人達と一緒なんじゃない?」
テイトンポ  「そうか。今夜はクズハと二人で過ごす。」
アコ  「言うと思った。分かったよ。
     オジヌ、どうしたの? 何か用事? 一緒に食べる?」
クズハ  「こっちにいらっしゃいよ。」
 
 
          大ムロヤ。
 
ササヒコ  「ミヤコからのお客となると、どうもてなせば良いものやら、見当もつきませんからな。
       サチが熊を獲ってくれたおかげで、こうしてぷるぷる煮もお出しできる。」
カヤ  「いやコノカミ、突然訪れ初めてお会いしたのに、こんな場を設けていただいた。
     それだけで感激しておるところです。
     ところで、ハニサは光っておったのですか?」
 
 
          夕食の広場。
 
ハギ  「シロクンヌのお客さんって、イエの人達なのか?」
ナジオ  「ミヤコの人達もいたよ。
      四人いた内の二人はミヤコからの人みたいだ。」
ヤシム  「サチの関係の人じゃないの? サチはミヤコ育ちだから。」
ヤッホ  「サチは今日、キジバトを2羽、狩ったらしいよ。大したものだよな。
      アニキとサチがいなくなると、寂しいよな。」
ヤシム  「私、寂しくて泣くと思う。想像するだけで、涙が出るもの。」
ムマヂカリ  「ハニサはどうなんだろうな?
        祭りの時には、シロクンヌにすぐにも旅立てと言わんばかりであったが。」
エミヌ  「ハニサって、何もかもがシロクンヌでしょう?
      初体験とか初恋もそうだって言ってたよね。
      旅だって、シロクンヌが背負ったから、スワまで行けたんだもん。」
ムマヂカリ  「ハニサは元々綺麗だったが、シロクンヌと出会ってから、
        人間離れするほど綺麗になっただろう?」
カタグラ  「女神だぞ。アユ村では男も女も、女神だと信じておるな。」
ヤシム  「私、ハニサは大丈夫な気がする。」
ヤッホ  「どういう事だ?」
ヤシム  「シロクンヌは時々帰って来るんでしょう?
      それにお腹にシロクンヌの子がいるからね。
      シロクンヌとはつながってるもの。目の前に居なくたって。
      それに、シロクンヌの中で、女って二人しかいないのよ。
      一人は娘としての、サチ。
      もう一人は、女としての、ハニサね。」
 
テイトンポ  「丁度いい。おれはしばらく、スッポンに掛かりっきりになるからな。
        シオラムと二人、アコが色々教えてやれ。」
アコ  「分かったよ。」
オジヌ  「ありがとう。アコ、よろしくね。」
テイトンポ  「オジヌ、靴を脱いでみろ。」
オジヌ  「え? うん。」
クズハ  「まあ! 何だか岩の様な足ね。」
テイトンポ  「オジヌ、そこでアコと背中合わせをやってみろ。」
オジヌ  「背中合わせ?」
テイトンポ  「背中合わせになって地面に尻を付いて座り脚は伸ばす。
        その体勢で始めて、相手の両肩を先に地面に付けた方が勝ちだ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第111話 16日目③

 
 
 
          いろり屋。
 
クマジイ  「ハニサの器じゃ。村の宝じゃ。割るでないぞ。」
オジヌ  「丁寧に扱ってるよ。
      こんなに洗い物があるんだぞ。クマジイも手伝ってくれよ。」
クマジイ  「わしは手が震えるじゃろ。
       落とらかして割ってしもうたら取り返しがつかんじゃろが。」
カイヌ  「クマジイ、今度いつ流木拾いに行くの?」
クマジイ  「近い内に行こうかと思おておる。カイヌも行くか?」
カイヌ  「連れて行ってくれるのなら、行きたい。」
クマジイ  「よしよし。では近々、下の川に行って見ようかの。
       オジヌは行かんか?」
オジヌ  「おれはそういうの、興味が無いんだ。」
クマジイ  「ほうか。まあそれも良かろう。オジヌはいくつになった?」
オジヌ  「16歳だよ。」
クマジイ  「もうそんなになったか。もう良かろう。グイっとやるか?」
オジヌ  「おれはまだいいよ。」
 
 

          アケビの谷。

 
クズハ  「凄いわ!」
エニ  「エミヌの言った通りね。こんなにたくさんのアケビ、初めて見たわ。」
エミヌ  「そうでしょう? でも私、二回目だけど、まだ道が分からない。
      途中のブナの森が広すぎるのよね。
      ブナの森の割には下草が少なくて歩きやすいんだけど、
      一人なら絶対に迷っちゃうよ。」
シロクン  「帰りに目印付けをするか。ブナの樹に印を付けよう。
        春にはアケビの新芽を採りに来るだろう?
        それにあそこのブナは、おそらく今年は成り年だぞ。
        大量に実を付けていただろう?」
エニ  「ブナの成り年って5年に一遍も無いんでしょう?
     実を付けない年が多いものね。」
クズハ  「私、アケビの芽、大好き。実よりも好きなくらい。」
シロクン  「サチ。サチなら、どう目印を付ける?」
サチ  「えっと・・・目立つ樹の、目立つ枝に、アケビの蔓で輪を作ってぶら下げながら帰る。」
エミヌ  「面白ーい。サチは木登りが得意だもんね。」
シロクン  「では、それで行くか。
        クズハ、採るのは、根蔓(ねづる)だろう?」
クズハ  「そうよ。枝蔓は捻じれてるから、私達は使わないの。」
シロクン  「切り石だ。六つある。
        瑪瑙(メノウ)と言ってな、黒切りよりも欠けないで長持ちする。
        見てろよ。根蔓に当ててここを叩くと・・・」
エミヌ  「わ! 簡単に切れるね。」
シロクン  「な? 切れ味はいいだろう?
        使いやすいように、そこらの樹を使って、こいつに長い柄(え)を付けるよ。
        その後、おれはキジバトを料理する。サチ、手伝ってくれ。」
 
 
          アケビの谷での昼食。
 
エニ  「シロクンヌは料理も上手なのね。パリッパリで美味しいわ。挟んであるのは、ノビル?」
シロクン  「そうだ。秋ノビルが生えていたから、挟んでみた。合うだろう?」
エニ  「ええ、美味しい。」
クズハ  「シロクンヌの手料理を頂いたって、ハニサに自慢しなきゃ。
      それにしても、サチってまだ12歳なんでしょう?
      しっかりしてるわねえ。
      ハニサの12歳の頃と大違い。」
シロクン  「ハハハ。ハニサはどうも、泣き虫だったみたいだな。」
クズハ  「そうなのよ。オネショしては泣いてたんだから。」
エミヌ  「えー! うちのオジヌなんて、ハニサのことが、好きで好きで大変だったんだよ。」
エニ  「そうそう、とにかくハニサは護ってあげなくちゃいけないって・・・
     年下のくせにね。あれってその頃だったでしょう?
     ああいう事って、照れ臭かったりして普通は言えないでしょう?
     オジヌは変わった子よ。」
クズハ  「そんなことがあったの。それは知らなかったわ。
      山ブドウは、あっちに生えているのね。エニ、春に皮採りに来ましょうね。」
シロクン  「山ブドウの皮採りは、時期の見極めが難しいだろう?」
エニ  「そうね。採れる期間は短いわね。半月も無いくらいだから。
     その時期を逃すと、皮がめくれなくなるわね。
     でも分かりやすいのよ。栗の花が咲く頃なの。」
クズハ  「神坐のお祭りの頃、私達は山ブドウの皮剥ぎするのよ。」
シロクン  「神坐祭りは、ウルシ村では盛大にやるのか?」
エニ  「そうでもないわね。準備とかはほとんど無いし。
     ウルシの開花と重なるから、ウルシ林での作業が忙しくて。」
クズハ  「ホコラが来て、ミツバチを放ってくれるの。」
シロクン  「タマと、たまに会うんだな(笑)。」
エミヌ  「オジサンのシャレだ(笑)。」
エニ  「やっぱり明り壺のお祭りがあるから、魂送り(たまおくり)祭りと神坐祭りは、
     他の村と比べると地味なんじゃない?
     神坐に栗の花を供えて・・・」
エミヌ  「でも見張り小屋は、使用中が多いんだよ。」
シロクン  「逢い引きに便利らしいな(笑)。」
クズハ  「春が来て暖かくなって、みんな浮かれるのよ。」
シロクン  「サチ、ミヤコでは神坐祭りは盛大なのか?」
サチ  「はい。ミヤコで一番大きなお祭り。ミヤコは栗の木が多いから。
     ミヤコでは、ドングリって食べないの。
     私、グリッコって、こっちで初めて食べた。」
エミヌ  「えー! ビックリ!・・・ってシャレじゃないよ。
      グリッコ無いなら、何を食べるの?」
サチ  「クリコ。搗栗(かちぐり)を挽(ひ)いた粉に、
     ヤマイモとか葛(くず)とか季節の山菜とかを混ぜて、グリッコみたいにするの。」
エニ  「美味しそうね、搗栗にひと手間かけるのね。
     搗栗ならそこそこあるし、今度詳しく作り方を教えてちょうだい。」
サチ  「はい!」
シロクン  「ところでクズハ達は、アケビの白蔓を知らないだろう?
        ウルシ村では見ておらんから。」
クズハ  「しろつる? 知らないわ。」
シロクン  「もらい物だが、おれは以前、白蔓で編まれたザルを持っていた。
        軽いしスベスベしていて引っ掛からないから使いやすい。
        虫も付かんし、カビも生えにくい。
        濡れてもすぐに乾くから、いろり屋でも使える。そして丈夫だ。
        だから、何年も使える。」
エニ  「いい事だらけじゃない。白蔓って何なの?」
シロクン  「おれも聞きかじりだぞ。
        どうやるんだ?と聞いたら、湯剥きだと言っていた。
        アケビの蔓を、熱湯に浸けるそうだ。そして、皮を剥く。
        すると、白い芯が出る。
        その芯で編むそうだ。
        最初は白っほいのだが、使い込むと、味わいのある色になる。」
クズハ  「採ってすぐに浸ければいいの?」
シロクン  「どうもそうらしい。そこで虫も死ぬしな。
        だが、どの程度の熱さの湯に、どの程度の長さ浸けるのか、
        そういう詳しい事は、聞いてはおらんのだ。
        しかし湯なら、テイトンポが帰ってくれば、いくらでもあるだろう?」
クズハ  「そうね! あの人に頼んで、いろいろ試してみるわ!」
 
 
          いろり屋。
 
カイヌ  「クマジイ、来年も、今年みたいな、灯りの樹を作るの?」
クマジイ  「そうなるじゃろうな。もう丘のテッペンにサルスベリが生かっておる。」
カイヌ  「その時、僕、クマジイを手伝いたい。」
クマジイ  「嬉しい事をゆうてくれるのう。カイヌ、ぐいっと行けい!」
オジヌ  「駄目だぞ、クマジイ。カイヌはまだ、14歳なんだぞ。」
クマジイ  「こりゃ、水じゃ。」
オジヌ  「ホントか? ・・・ブーッ! さ、酒じゃないか!」
クマジイ  「へ? 間違うた。こっちが水じゃ。」
カイヌ  「アハハハハ。クマジイは面白いなあ。
      ねえ、今からちょとだけ、下の川で探して見ようよ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第112話 16日目④

 

 

 

          アケビの谷。

 
サチ  「父さん、凄いね!」
エミヌ  「アハハハハ! シロクンヌ、丸まるとしちゃって、面白いよ。
      歩けるの?」
シロクン  「歩けるさ。手首から先が出ているから、カブテだって使えるぞ。
        しかしたくさん採ったものだな。
        枯らすような採り方はしてないだろう?」
エニ  「そこはしっかりと見極めて切り石を入れているわよ。
     こんなにたくさんのアケビ、枯らしてしまっては大損だもの。」
クズハ  「シロクンヌの言う通りにやったけれど、
      これだけの蔓(つる)を全部体の周りに巻いてしまって、重すぎないの?」
エミヌ  「サチが目印用の蔓を持ってるだけで、私達、何も持って無いよ。」
シロクン  「それでいいさ。おれも重くは無い。
        蔓を着込んだようなものだ。
        ジクジクはするがな(笑)。
        さあ、帰ろう。ハニサはどうしているかな。」
 
 
          帰りの道。
 
エミヌ  「サチは、後ろでずっとカブテの練習をしてるよ。
      森に向かって投げては取りに行ってる。」
シロクン  「こいつは重くは感じないが、振り向くのが難儀でな。」
エミヌ  「アハハ。この格好で村に帰ったら、みんなが驚くよ。」
シロクン  「村までは行かんよ。曲げ木工房までだ。」
エミヌ  「そうか。そこに、少し置いていくんだったね。
      ナジオとシオラム伯父さん、スッポン池を掘ってるのかな。」
シロクンヌ  「シオラムはシオ村に出向して長いのか?」
エミヌ  「17の時からだって聞いてるから、25年近くなるはず。」
シロクン  「ではナジオは向こうで生まれたのだな。」
エミヌ  「うん。ねえ、もうすぐ落とし穴の所じゃない?」
シロクン  「そうだ。この長い登り坂を上って、下りきったら水場だな。」
エミヌ  「掛かってると思う?」
シロクン  「サチは、考え考え掘っていただろう?」
エミヌ  「そう。場所はすぐに決めたのに、穴の形を考えてたのかな?
      でも見たら、深さだって、半回し(35㎝)くらいしかなかったよ。
      オコジョが落ちたって逃げちゃうような穴だった。」
サチ  「父さん、この坂の向こうが水場でしょう?」
シロクン  「登った後に、長い下り坂があるぞ。
        見に行くのか?」
サチ  「坂の上まで行って、見てみる。」
エミヌ  「走って行っちゃったけど、坂の上からじゃあ、落とし穴まで遠いでしょう?」
シロクン  「うん。穴の様子は分からんな。」
エニ  「サチが走って行ったわね。
     イチかバチかの賭けがどう出るか。」
クズハ  「サチは元気ね。
      帰り道、ずっと、カブテを投げ続けていたわよ。」
 
サチ  「父さーーん!掛かってるーー!」 坂の上で叫んでいる。
エミヌ  「なんで、あそこで分かるの?」
シロクン  「ん? まさか!」 
 
    体に蔓を巻き付けたまま、シロクンヌは走り出した。
 
 
          帰りの道。水場。
 
    段差の上、樹の根本に掘ったサチの落とし穴。
    小さな穴だが、それは、恐るべき穴であった。
    その穴に落ちたのは、足だった。
    熊の左の後ろ足だった。
    熊は、樹の枝に置かれたエサを取ろうと立ち上がり、エサに近づいて落ちたのだ。
    落ちた際に熊はバランスを崩し、崖に向かって倒れ込んだ。
    それを想定して、サチは穴を掘っていた。
    根と根の間を上から掘り、崖では無い側の根の下まで、横に掘り広げていたのだ。
    熊の足は、穴底と、その上の根に、完全に挟まってしまっていた。
    つまり熊は、崖に向かって倒れ込んで、足が抜けずにそのまま逆さに宙吊りになっていた。
    いくらもがいても、小さく狭い穴からは、足が抜けることはなかった。
 
エミヌ  「すごいすごい! これを狙ってたの?」
サチ  「そう。」
エニ  「イチかバチかってこういう事だったのね!」
クズハ  「サチ、凄いじゃない! こんなに大きな熊を捕まえたのよ!」
シロクン  「蔓を外すのを手伝ってくれ! サチ、父さん、驚いたぞ!」
サチ  「私も驚いた。」 ほめられて嬉しそうだ。
エミヌ  「相当もがいたみたいね。今は疲れて大人しくなっているようだけど、
      近づくと危ないね。」
クズハ  「シロクンヌ、熊の内臓は、ヌリホツマが欲しがるわよ。干して薬にするの。
      あ! そう言えば、生きてる熊からしか取れない、なにか特別のものがあるみたい。 
      シロクンヌは、分かる?」
シロクン  「いや、どうするかな・・・
        せっかくのサチのお手柄だ。
        こんな大きな雄熊を生け捕りにするなどとは、思ってもみなかったからな。
        ヌリホツマを、ここに連れて来るしかないか。」
エニ  「クマジイも、熊に詳しいのよ。」
 
シロクン  「足は、樹の根の下に、完全に挟み込まれている。
        熊が起き上がらない限りは、おそらく抜けない。
        ここはこのままにして、村に戻ろう。蔓は置いて行けばいい。」
エミヌ  「あ! オジヌだ。向こうからオジヌが来た。」
シロクン  「丁度いい時に来た。オジヌがいれば安心だ。みんなはオジヌと村に戻ってくれ。
        おれは走って戻って、ヌリホツマを背負ってくる。」
エミヌ  「ここで待ってちゃいけない?」
シロクン  「もし足が外れて、熊が暴れ出したら危険だぞ。」
エミヌ  「少し離れた所にいる。」
シロクン  「それでもいいが、オジヌと一緒に行動してくれよ。
        他にも熊がいるかも知れない。」
オジヌ  「どうしたんだ? あの熊!」
シロクン  「オジヌ、みんなを頼むぞ。おれは先に戻る。
        シオラムとナジオには、すぐこっちに来るように言うよ。」
オジヌ  「クマジイとカイヌが、川沿いにいるはずだよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第113話 16日目⑤

 

 

 

          夕食の広場。

 
ハニサ  「サチは、最初から、熊の足が狙いだったの?」
サチ  「そう。崖と樹と樹の根っこが見えたから、ふと思い付いたの。
     エサもあったから。」
ヤッホ  「おれ達は落とし穴と言えば、
      獲物の体全部を落とさなきゃいけないと思い込んでいたからな。
      足だけを落とせばいいなんて、そんな事考えたこともなかったよ。」
ハニサ  「サチは頭いいんだね!
      シロクンヌでも、サチの目論見に気付かなかったんでしょう?」
シロクン  「サチ、膝に来い。
        正直おれは、何も獲れないと思っていたよ。
        落ちたとしても逃げられて。
        サチが考えながら一生懸命に掘っていたから、口出ししなかったのだが。」
エミヌ  「口出ししなかったシロクンヌも立派よ。
      私なんか、そんな穴じゃ駄目よって言いたくて、うずうずしてたもん。」
ナジオ  「おれは熊というものを初めて見たから、驚きだったよ。」
クマジイ  「あんな大きな熊は、わしも初めてじゃ。
       胆のうも他の熊の倍の大きさじゃったな。」
サラ  「先生が大喜びだったもの。」
ムマヂカリ  「熊の横で、はしゃぎ回っておったな。」
ナジオ  「こぼすなと言って、必死だったのは?」
サラ  「死んだばかりの熊からしか採れない何か貴重な液を採っていたの。
     いい薬が出来るんだって。」
クマジイ  「具合よく、逆さじゃったから、採りやすかったんじゃ。」
ハギ  「おれ、熊の肉は大好物なんだ。
     ムマジカリ、いつ頃食えそうなんだ?」
ムマヂカリ  「切り分けて、崖の室に入れてあるが、テイトンポとアコが帰って来る頃じゃないか。
        アコが居なければ、タレも使えんしな。」
シロクン  「タレもいいが、油煮が最高に旨いぞ。」
クマジイ  「脂を仰山持っておったから、油煮は5~6杯行けそうじゃぞ。」
ササヒコ  「やっておるな。
       サチ、あの熊の毛皮だが、村でもらっていいと聞いたが。」
サチ  「はい。お世話になっているから、お礼もしたいし。」
ササヒコ  「そうか。ではサチの敷物と呼んで、大ムロヤで使うことにしよう。
       村の名物が、また一つ増えたな。
       あれを見れば、みんなおどろくぞ。大きいからな。
       来年の祭りでは、スワの衆も大勢来るだろうから、顛末を聞かせてやらねばならん。」
ヤシム  「女神を護る勇者シロクンヌでさえ、見抜けなかったという部分がキモね。」
ササヒコ  「ハハハ、シロクンヌがダシに使われるとはな。
       その場所で落とし穴の話を持ち出したのには、何か訳があったのか?」
シロクン  「ああ、段差の下の方なんだが、掘りやすそうに見える土の所があったのだ。
        後で試しに掘ってみたが、やはり掘りやすかった。
        おれとしては、短い時間に大きな穴を掘るのなら、そこを掘るしか無いと思った。
        サチがそれに気付くかどうかを試したつもりだったんだよ。」
エミヌ  「サチは私に、時間が無いから小さい穴の方がいいと言ったわね。」
クマジイ  「小さい穴じゃが、根っ子の下をくぐって、かなり奥まで掘ってあったんじゃ。
       あそこに足が入ってしまったんじゃあ、座り込まんと抜けんじゃろうな。
       崖側の根っ子が支点になるように、工夫されておったし。
       ところが、座り込もうにも、崖になっておって地面が無いんじゃから。」
ササヒコ  「発想も見事だが、それを実現する才覚も持ち合わせておるということだな。
       シロクンヌ、サチの行く末が楽しみだな。」
シロクン  「そうだな。
        サチは生きている熊を見たことがあったのか?」
サチ  「ミヤコに子熊がいたの。母熊が狩られて、そばにいた子熊が連れて来られたみたい。
     柵の中にひと月くらい居て、山に帰されたの。
     お祭りの時期で、子供の獣は、殺したり死なせたりしてはいけなかったの。」
ササヒコ  「なるほど。わしらも卵を温めておる雌雉(メスキジ)は狩りはせんからな。
       卵を温めておる時は、てこでも動かんから狩り放題なんだが、それはせん。
       とにかくそれで、サチは熊の動作を見知っておったのだな。」
シロクン  「ヤシム、オコジョの毛皮で、サチに襟巻きを作ってやってくれないか?」
ヤシム  「いいよ。サチ、可愛いのを作ってあげるね。」
サチ  「ありがとう。」
 
    サチは照れくさそうにみんなの話を聞いていたが、村に貢献できた喜びでいっぱいだった。
 
エミヌ  「ところで、ハニサはカラミツブテって知ってる?」
ハニサ  「美味しいの? あたし、食べたことないよ。」
ムマヂカリ  「ブァッハッハッハ・・・アーハッハッハ・・・」
エミヌ  「アハハ、ハニサ、食べ物じゃないのよ。狩りの道具。」
ハニサ  「やだ、知らなかった! ムマヂカリ、そんなに笑わなくたっていいでしょ!」
サチ  「お姉ちゃん、これがカラミツブテ。
     父さんに作り方を教えてもらったの。」
エミヌ  「シロクンヌね、それの達人なのよ。
      みんなと話とかしながら歩いてて、ある時それをクルクルシュッてやるの。
      歩きながらよ。そしたらキジバトが落ちて来るのよ。」
ヤッホ  「すげーなアニキ。」
エミヌ  「オコジョの時なんて、ただの草むらよ。
      通りすがりに草むらにシュッとやって、そしたらオコジョが掛かってるじゃない。
      そういうの見てたら、シロクンヌのことが大好きになっちゃうでしょう?
      だけどシロクンヌはね、ハニサの事しか頭にないのよ。
      [ハニサはどうしてるかな。]とか、[ハニサは何してるかな]とか、
      何度も言うんだから。」
シロクン  「ちょっと待ってくれ。おれはそんな事は言っておらんぞ。」
エミヌ  「言ってたじゃない。サチだって聞いたでしょう?」
サチ  「父さん、私と二人の時にも言ってたよ。」
ササヒコ  「ワハハ。よいではないか。仲が良くて」
シロクン  「ここ数日、ハニサと四六時中一緒だったからな。
        無意識のうちに、口に出たのかも知れん。」
ムマヂカリ  「この二人は、最初からアツアツだったからな。」
シロクン  「そうだ、サラ、サンショウウオは見つかったのか?」
サラ  「たくさんいたよ。」
ムマヂカリ  「話をごまかしおったな。ワハハハハ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第114話 16日目⑥

 

 

 

          ハニサのムロヤ

 
ハニサ  「あたし、ふわふわしてる。」
シロクン  「どうした? 気分が悪いのか?」
ハニサ  「逆だよ。なんだか幸せ。だからふわふわしてるの。」
シロクン  「粘土搗き、本当にしなくていいのか? 
        おれが一人でやって来ようか?」
ハニサ  「いいの。シロクンヌもここに居て。毛皮の上に寝転がってよ。」
シロクン  「だったら、明日搗いてやるよ。サチにも搗かせる。
        だけど、たぶん明日は雨だぞ。」
ハニサ  「雨だったらシロクンヌはどうするの?」
シロクン  「粘土搗きは、いっぺんにやっても駄目なんだろう?」
ハニサ  「あたしは、その日か翌日に使う分しか搗かないけど・・・」
シロクン  「それなら、背負子(しょいこ)を作るかな。
        サチはカブテの練習がしたいだろうから、オジヌに手伝ってもらうか。
        オジヌは木工を覚えたがっていたから。」
ハニサ  「どこで作るの? 作業小屋?」
シロクン  「そうだな。工房でやろうと思っていたが、ハニサが居る作業小屋でやるか。」
ハニサ  「そうしなよ。そしたら一緒に居られるもん。
      山積みだった萱(かや)がごっそり無くなったから、広くなってるし。」
シロクン  「ああ、大屋根の下の寝床に使ったんだな。
        そうだ、またここで、ムシロを広げて作業してもいいか?」
ハニサ  「いいよ。今度は何を作るの?」
シロクン  「取りあえずは、手火(小さなタイマツ)だ。
        ほら、森の作業場から槙の木(コウヤマキ)の端材をたくさん持って来たんだ。
        こいつらを割いて、手火にする。
        槙の木は燃やしても煙や煤(すす)がそんなに出ないんだ。
        槙肌(まいはだ。コウヤマキの樹皮)も、よく燃えるんだぞ。
        ほら、こうやって割くだろう。そしてこの先に、槙肌を巻く。
        火付きがいいんだ。」
ハニサ  「簡単だね。あたしもやってみたい。」
 
シロクン  「ハニサ、なかなか巧いじゃないか。」
ハニサ  「これでいいの? 燃やしてみていい?」
シロクン  「やってみたらいい。」
ハニサ  「ほんとだ! よく燃える。明るいね。」
シロクン  「たくさん作っておいて、大ムロヤにでも置いておこうかと思ってな。」
 
 
          ハギのムロヤ。
 
サラ  「細い縫い針の使い道、先生から聞いたよ。
     何を縫うと思う?」
ハギ  「糸は、シカの腱(けん)から取るんだったよな。それほど長くない糸だ・・・
     何だろうな・・・毛皮を縫い合わせるのなら、もっと長い糸がいいよな。
     なめし革か?」
サラ  「答えはね、傷口。」
ハギ  「え? 傷口? 怪我した時の、傷口か?」
サラ  「うん、そう言ってた。縫えば、くっつくんだって。
     動物から取った糸の方が、草木から取った糸よりも体に合うんじゃないかって思ったみたい。
     ウサギとか、キツネとかを使って試してみるんだって。」
ハギ  「へー、ほら、シロクンヌからもらった石、瑪瑙(メノウ)と言ったっけ、やっと割れた。」
サラ  「そのたたいた石はどうしたの?」
ハギ  「さっきシロクンヌがくれたんだ。これを渡すのを忘れてたって言って。
     ヒスイに似た石らしいよ。この敲(たた)き石も貴重だよな。
     サラの石は磨いて首飾りにしようと思ったんだけど、どうする?」
サラ  「私も石刀がいい。シロクンヌが持ってたみたいなの。」
 
 
          ハニサのムロヤ。
 
シロクン  「そうだ、背負子の材料は工房にあるから、今の内に作業小屋に運び込むか。
        手火を持って、ハニサも一緒に行かないか?」
ハニサ  「うん、行く。わー何だか楽しいね。」
 
 
          村の出口。
 
シロクン  「やはり明日は雨だな。月も星も見えないし、雨の臭いがするからな。」
ハニサ  「手火が無ければ真っ暗だね。」
サチ  「父さーん、どこに行くのー?」
シロクン  「サチ! サチの声だよな? サチ、どこにいるんだ?」
サチ  「ここだよ、父さん。」
ハニサ  「サチ! 一人なの? どこに行ってたの?」
サチ  「広場でカブテの練習をしていたら、石が割れてしまったの。
     だから代わりの石を河原で見つけて来たの。」
ハニサ  「一人で行ったの? 危ないから、そんな事しちゃ駄目だよ!」
 
    そこへヤシムが、息を切らして走って来た。
 
ヤシム  「サチ、探したじゃない! 広場に居てって言ったでしょう!」
サチ  「ごめんなさい。」
 
 
          いろり屋。他に誰もいない。
 
ヤシム  「今夜はここも寂しいわね。」 囲炉裏に小枝をくべている。
シロクン  「サチ、もう泣かんでいい。」
サチ  「ヤシム、心配かけてごめんなさい。」
ヤシム  「ああ! でも無事で良かった!
      カブテの練習がしたいって言ったから、広場だけだよって言って、明り壺を渡したの。
      しばらくたって見に行ったら居ないから、村中を探し回ったわよ。
      ハニサのムロヤに行ったら、二人共居ないし。
      まさか村から外に出てるなんて思わなかったもの。」
シロクン  「これから夜に練習したければ、作業小屋の裏でやれ。
        それも父さんが、粘土を搗いている間だけだ。いいな?」
サチ  「はい。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第115話 17日目①

 

 

 

          朝のいろり屋。外は激しい雨だ。

 
シロクン  「オジヌ、ちょっと来てみろ。」
オジヌ  「おはよう。どうしたの?」
シロクン  「ほら、これをやるよ。三つある。」
オジヌ  「これは・・・歯?
      こないだのサメの歯に似てるけど、こっちのはギザギザがあるね。」
シロクン  「ホホジロザメの歯だ。アオザメよりも、大きくて狂暴なんだぞ。
        この歯に穴を開けてな・・・ほら、おれはこうやって使ってる。
        竹を切るのに便利だ。
        ここでギコギコやるんだよ。
        タビンドの七つ道具の一つだな。」
オジヌ  「見せて。
      穴を開けて、ヒモで木の持ち手と結んで固定するんだね。
      ここを持って、ギコギコやるんだ・・・
      三つもいいの?」
シロクン  「ああいいさ。オジヌも自分なりに考えて、道具を作ったらいい。」
オジヌ  「ありがとう! 一つは、これにそっくりなのを作ってみる。」
シロクン  「オジヌ、今日、背負子を作るが、オジヌもやるか?」
オジヌ  「やりたい! どこでやるの?」
ハニサ  「作業小屋だよ。」
オジヌ  「母さんとの約束で、アケビの蔓の枝切りをしなくちゃいけないんだ。
      急いで済ませて行くよ。
      覚えていてくれたんだね! おれが木工を教えて欲しがってたこと。」
シロクン  「ああ、覚えていたさ。
        おれ達も粘土搗きを先にやって、その後に背負子作りだから、丁度いいんじゃないか。」
オジヌ  「じゃあ、急いでやって来る。」
シロクン  「サチはどうする? カブテの練習がいいか、背負子がいいか?」
ハニサ  「でも、土砂降りだよ。どこで練習するの?」
シロクン  「作業小屋の裏だな。濡れながらの練習になる。」
サチ  「カブテの練習でもいい?」
シロクン  「粘土搗きで体を温めてからだぞ。」
サチ  「はい。」
シロクン  「雨でずぶ濡れになる、それもまた訓練だ(笑)。
        サチ、ちょっとカブテを見せてみろ。石が割れたと言っていたな?」
サチ  「取り替えたのはこっち。似た石を探したの。」
シロクン  「よく探せたな。暗かっただろう。」
サチ  「すぐ見つかったよ。」
シロクン  「まあ、ありふれた形の石だからな。」
 
 
          作業小屋。
 
シロクン  「ハニサ、今日搗く粘土はどれかな?」
ハニサ  「ひと固まりになってる囲い筒があるでしょう?
      その内の・・・待ってね。先に着替えるね。」
シロクン  「ハニサ!」
サチ  「お姉ちゃん!」
ハニサ  「なに? どうしたの? あ!」
シロクン  「ハニサ! これは!」
サチ  「お姉ちゃん! お腹が・・・」
ハニサ  「ここだけ光が渦巻いてる!
      ここにあたしの赤ちゃんがいるの?
      シロクンヌの子がいるんだよ!
      あたし、シロクンヌの子を、宿したのね?
      ここにいるんだよ。シロクンヌ! 触ってみて!」
 
    シロクンヌは、恐る恐る、光の渦に手を触れた。
 
シロクン  「聞こえる!
        語りかけて来ている!
        ハニサ! はっきりと聞こえるぞ!
        おれの子だ! おれの子が、ここにいる!」
ハニサ  「サチ! サチも触ってみて!」
サチ  「お姉ちゃん! 良かったね! 光の子だよ。
     父さん、この子が産まれたら、会いに来ようね!」
ハニサ  「サチ!」
 
    ハニサは、サチを抱きしめた。
 
サチ  「父さん! 会いに来よう! 
     だって、光の子は、父さんの子なんだよ!」
シロクン  「サチ!
        おれの子だ。はっきりと聞こえた。[ここにいるよ、父さん]と。
        ハニサ。会いに来るぞ! 
        おれはこの子と、そしてハニサに会いに来る!」
ハニサ  「シロクンヌ!」
 
    ハニサはシロクンヌに抱きついた。涙があふれ出た。
 
シロクン  「ハニサ、風邪をひくといけない。服を着ろ。
        ヌリホツマが居ないか、うるし小屋を見て来る。」
オジヌ  「どうしたの? シロクンヌ。」
シロクン  「オジヌ、いい所に来た。クズハはどこにいるか知っているか?」
オジヌ  「大屋根の下で今まで一緒だったよ。」
シロクン  「すぐ呼んで来てくれ。ハニサが宿したんだ。」
オジヌ  「ほんとかい、ハニサ。」
ハニサ  「うん。お腹に光の渦ができたの。」
オジヌ  「本当だ! 凄い光だ! 服の上からなのに、あんなに渦巻いてる!
      すぐ呼んで来る!」
シロクン  「待て。いっその事、おれ達の方から見せにいくか。
        ハニサ、光の子が宿ったのを、みんなに見てもらおう。その方がいい。」
ハニサ  「うん!」
オジヌ  「コノカミは大ムロヤにいたよ。」
シロクン  「オジヌ、ハニサが濡れんように菅着(すげぎレインコート)をはおらせて、
        大ムロヤに連れて行ってくれ。
        おれは、うるし小屋に寄ってから行く。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第116話 17日目②

 

 

 

          大ムロヤ。祝宴のゆうげ。

 
ササヒコ  「今日、ハニサがシロクンヌの子を宿したことが分かった。
       みんなも見たであろう。
       その子は、光の子だ。
       芽吹いたばかりの命が、あふれんほどの光を放ち、渦を作って見せたのだ。
       しかもその子は、父親であるシロクンヌに、
       ここにいるよ、と語りかけたと言うではないか。
       トコヨクニ始まって以来の吉事吉兆が、我がウルシ村で起こったのだ。
       来年から、明り壺の祭りから三日後を、光の日として、村を挙げて祝おうと思う。
       祭り明けだが栗実酒はまだまだあるぞ。
       皆の衆! 目出度い踊りを踊って、光の子の宿りを祝おうぞ!」
 
    大ムロヤに大歓声が沸き起こり、村人全員が地を揺らして目出度い踊りを踊った。
 
クズハ  「シロクンヌ、有難うございました。
      ハニサに光の子を授けてくださいました。」
シロクン  「いや、おれはただ、何と言うか・・・」
ハギ  「ハニサ、よかったな! シロクンヌ、ありがとう。
     シロクンヌからはいろんな物をもらったけど、また最高の贈り物をくれたね。」
シロクン  「いや、だから、おれはただ・・・」
サラ  「ハニサ幸せそう。おめでとう。
     ハギ、私達も、子供欲しいね。」
ハニサ  「ありがとう。ほんとに幸せ。」
ヤシム  「ハニサ、おめでとう! よかったね。
      光の子なんて凄いじゃない!」
ハニサ  「ありがとう。ヤシム、いろいろ教えてね。」
ヤッホ  「さすがアニキだな。早々と決めてくれたね。」
シロクン  「ああ、善は急げと言うからな。」
ムマヂカリ  「シロクンヌ、子供を見に来るってな。
        毎年、お祭りには来いよ。」
シロクン  「どんな子に育つのか、おれも楽しみなんだ。
        ちょくちょく来るかもな。」
ムマヂカリ  「見てみろ、ハニサの顔を。
        おぬしがそう言っただけで、涙ぐんでおるのだぞ。」
エミヌ  「そうだよ。どうせ旅に出たって、ハニサはどうしてるかな・・・
      なんて、ぼそぼそつぶやくくせに。」
シロクン  「ハハハ、確かにそうかも知れん。
        サチには聞かれんようにせんとな。
        報告されてしまう(笑)。」
クマジイ  「長生きはするもんじゃのう。
       まさかこんな吉兆と出会えるとは思わなんだ。
       こうなれば光の子の成長を見届けるまでは、お迎えが来ても追い返さにゃあならんな。」
シロクン  「そうだ、クマジイ。ちょくちょく来るから、元気でいてくれよ。」
シオラム  「ハニサは美しくもなったが、健康的にもなった。
       これなら絶対、元気な子が産めるぞ。」
ナジオ  「おれは帰りがけに、ハニサの話を塩街道中に広めてやろうと思ってる。
      塩街道一の美人が、光の子を宿したとな。」
ヤッホ  「よその村から、見に来やしないかな?」
ハギ  「絶対、見に来るぞ。ナジオ、程々にしてくれよ。」
タマ  「でもこういう話は伝わるのが早いからね。
     ホコラもハニサの光の渦を見たら、いそいそと帰って行ったよ。
     あれはおそらく、世間に言い触らすつもりだね。」
エミヌ  「オジヌ、あんたハニサを護るんでしょう?
      シロクンヌの留守中にハニサに付きまとう奴がいたら、あんたがやっつけなさいよ。」
オジヌ  「ああ、そんな奴が出たら、やっつけてやるよ。」
シロクン  「ハハハ、オジヌ、今日は祝いの準備やらでごたごたしてしまって、
        ろくに背負子作りができなかった。
        明日も背負子作りをするが、来るか?」
オジヌ  「もちろん行くよ。明日は他に用事を入れてないから、朝一番で作業小屋に行ってる。」
ヤシム  「背負子が出来るなら、
      バンドリ(肩や背中を保護するために着ける当て物)が要るんじゃない?
      持ってないなら、作ってあげようか?」
シロクン  「そうだ。バンドリはあった方がいいな。オジヌは持っているのか?」
オジヌ  「急ごしらえの物しか持ってない。」
ヤシム  「それなら、しっかりしたのを作ってあげるよ。」
オジヌ  「ありがとう。ヤシムはバンドリを編むのが巧いんだよ。」
ハギ  「おれ達のバンドリもヤシムが作ってくれたんだよな。」
ヤシム  「菅(スゲ)はたくさんあるから、テイトンポの分も作っておくよ。」
シロクン  「すまんな。助かるよ。ヤシムはスゲ細工が得意なんだな。」
ヌリホツマ  「ハニサや、身代わり人形じゃが、この奥の神座の前に一度並べる。
        その手前が人形作りの作業場になるのじゃが、そこまでが神域じゃ。
        このあとそこに線を引く。
        そなたは今夜、粘土と共に神域で休むのじゃ。
        明朝まで、神域にはハニサしか入ってはならぬ。
        シロクンヌは神域の手前で休むのじゃぞ。」
ヤッホ  「神域の手前なら、アニキ以外の人が居てもいいんだろう?」
ヌリホツマ  「それは構わん。
        粘土に魂写し(たまうつし)をするという意味から言えばじゃが。
        大騒ぎなどして、ハニサを疲れさせんようにな。」
サチ  「父さん、私も居てもいい?」
ハニサ  「いいよ。サチも居なよ。シロクンヌ、いいでしょう?」
シロクン  「ああ。ヤシム、サチは今夜、こっちで寝るよ。」
ヤシム  「それがいいよ。
      私の時なんて、ヤッホが寝ぼけて、線から入って来ようとしたんだから。」
ムマヂカリ  「あれは危なかったな。
        ヤシムー、ヤシムー、と言いながら、すたすた歩いて行くもんだから、
        おれが慌てて襟首を引っ掴んだんだ。」
ハギ  「アコの時も、ヤッホは寝ぼけたよな。アコ、アコ、って。」
ヤシム  「そうなの? あんたほんっとに見境が無いね!」
 
    ヤシムがヤッホの尻を叩いて、みんなが笑った。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。