縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第33話 7日目⑥

 

 

          アオキ村。夕食の広場。続き。

 

シロクン  「ヒのクンヌ・・・ヒのイエか・・・
        サチ、ヒのイエとは、どんなイエなのだ?」
サチ  「私、ヒのイエの事はよく知らないの。
     ミヤコにヒのイエのムロヤはあるんだけど、イエの人は居ないことが多いみたい。
     中今に長けた、不思議なイエだって聞いてるけど・・・」
タカジョウ  「中今だと!?
        中今を操るのか?」
ミツ  「中今?ナカイマって何?」
サチ  「私もよく分からないの。父さん、知ってる?」
シロクン  「いや、初めて聞いた。
        タカジョウは知っているのか?」
タカジョウ  「ああ、師匠から少しだけ教わった。
        心の在り様で、人は不思議な力を発揮出来るそうだ。
        こないだシロクンヌが、あっと言う間にハタレどもを叩きのめしただろう。
        あれは一つの中今だと思う。」
カゼト  「シロクンヌは、ホントに何にも知らんのだな(笑)。
      シロのイエは、ヒのイエと並んで、優れた中今のイエなんだぞ。
      そういう血筋だ。
      あと、タカのイエもそうだ。」
イワジイ  「シロクンヌの並外れた体力なんかも、中今とやらじゃろう。
       とてもヒトとは思えんからのう。」
カゼト  「ヒトは誰もが中今の力を秘めている。
      ただ、芽吹かせていない者が多い。
      イエの者であれば、体の中に中今の血が濃く流れている。
      サチにも、おれにもな。」
ミツ  「そうか!だからサチには不思議な力があるんだ!」
シロクン  「ふむ、イナなんかは、おそるべき中今だ。
        手に負えんからな。」
マサキ  「イナと言うのは?」
シロクン  「シロのイエの者で、武で言えばおれの姉弟子にあたる。
        美人なのだが、とにかく強いんだ。
        クンヌのおれに、平気で手を上げおる。」
ミツ  「目に、青アザを作ってたよね。」
マサキ  「シロクンヌがか?」
シロクン  「そうだ。平気で殴って来る。熊より凶暴だ。
        だがそのイナが、ハニサのムロヤで一緒に寝起きして、
        ハニサとアマテルを護ってくれているから、おれも安心なんだが(笑)。」
カゼト  「シロのイエのクンヌを殴る女がいるのか(笑)。
      中今については、おれも知っているのはそこまでだ。
      ヲシテと同じで、中今も悪用されては大変だろう?
      だから、イエの者でも無暗に口に出したりはしない。
      深い所は、ミヤコでアマカミから直接聞いてくれ。」
シロクン  「アマカミか・・・どんなお方なのか、お会いするのが楽しみだ。
        テーチャの連れ合いは、ヒのクンヌの協力を求めてアサマに向かった訳だな。
        黒い水の件を解決するために。」
テーチャ  「そう。ここでカゼトからヒのクンヌの居場所を聞いて旅立ったの。
       それが十日前。
       その後に台風が来たから、少し心配。
       うちの人は旅慣れてるから大丈夫だろうけど、シナの木の川がどうなったのか・・・」
タカジョウ  「ふむ、多少は氾濫したかも知れんな。」
キサヒコ  「すまんが一つだけよいか?
       その中今の力というのは、一人よりも二人、二人よりも三人と、
       多く集まった方が強まるのではないのか?」
カゼト  「かも知れん。波動が合えばだが。」
テーチャ  「あたし、シロクンヌ達と一緒に行きたい!
       いいでしょう?沼の所まで案内したいの。
       もちろん、カワセミ村に寄ってからでいいわよ。」
シロクン  「ああ良いが、山越えの道になるぞ?」
テーチャ  「そんなの平気よ。ここに来るのだって余裕だったんだから。
       あたし、すぐに荷造りできるから、明日の出立で構わないわ。」
マサキ  「シロクンヌ、ヌナ川の舟隠し、以前一緒に造っただろう。
      あそこにおれの舟が隠してある。
      櫂(かい)も三本ある。
      使ってくれていいぞ。」
シロクン  「おお、助かる!
        すべて山越えで行くよりも、三日は早まるな。」
イワジイ  「わしら全員、乗れるのかい?」
マサキ  「大丈夫だ。大男五人で海に漕ぎ出した事だってあるんだぞ。
      ヌナ川を下り、海に出て西に向かえばヒスイ海岸だ。
      舟はカワセミ村に預けておいてくれ。」
シロクン  「おれの舟にも全員が乗れる。
        イワジイもコシに行くだろう?」
イワジイ  「もちろんじゃ。黒い水とやらが気になってのう。
       その水、ひょっとして燃えやせんか?」
テーチャ  「え?水だよ?
       水が燃える訳ないでしょう?」
イワジイ  「以前、北の山師から聞いたんじゃが、大昔、コシよりももっと北じゃろうが、
       燃える水が湧いたそうじゃ。
       黒い水だと言うておった。
       イエにはそういう言い伝えは無いかの?」
カゼト  「おれは知らんが、誰か知っているか?
      ・・・知らんようだな。
      もし伝わっているとすれば、ハニのイエだろうが・・・
      アサマには、ハニのイエの者もいるはずだ。
      ヒのクンヌと磐座(いわくら)を組んでいると思う。」
マサキ  「磐座はイエの者が組んでいたのか!
      あれはやっぱり、ヒトの仕業だったんだな。」
カゼト  「神が造った物と、ヒトに神が宿ってヒトの中今が造った物と、両方だと思う。」
マサキ  「シロクンヌも磐座を組んだりして来たのか?」
シロクン  「いや、まったくしていない。
        と言うか、おれは磐座とは神の仕業だとばかり思っていた。
        どうもシロのイエは、少し特別なようだな。
        他のイエとの付き合いはほとんど無くて、内輪でひたすら鍛錬をしておる。」
キサヒコ  「平時では目立たんが、世が乱れた時、前に出るイエか。」
タカジョウ  「ハタレの乱の時が、そうだったんだよな。
        先代のシロクンヌが大活躍したそうだ。
        磐座だが、師匠が言うには、山のテッペンに岩がポコンと載っていれば目立つだろう?
        だが、目立たん物もかなりあるらしいぞ。
        それでな、カゼトとマサキは東に向かう道中でウルシ村にも寄るだろう?」
マサキ  「もちろんだ。ハニサにも会ってみたいしな。」
カゼト  「ふむ。イナにも会ってみたい(笑)。」
タカジョウ  「村の入口に飛び石がある。
        巨岩が具合よく川を横切って並んでいる。橋の代わりだ。
        あの飛び石こそ、磐座ではないかとおれは思っていたんだ。
        カゼト、おぬしの目にはどう映るか、思った事を村のカミに伝えてくれ。」
カゼト  「なるほど・・・光の子が産まれる村だ。
      何かのいわれがあるのは間違いないはずだ。」
タカジョウ  「それから、さっきおれは御山と言ったが、
        地元でそう呼ばれている山並みが、八ヶ岳だ。
        ウルシ村から綺麗に見える。」
カゼト  「そうなのか!八ヶ岳の・・・
      そこがもしかすると、約束の地なのかも知れん。
      そこで光の子が・・・
      是非、ハニサに会ってみたい。神々しいのだろうな・・・」
ミツ  「女神様だって言われてた。」
サチ  「父さん、お姉ちゃんが光ってたの・・・
     あれは中今だと思うよ。」
シロクン  「ハニサが中今・・・確かにそうだ。
        ハニサこそ、並外れた中今の持ち主だ。
        ・・・ハニサはどうしているかな。」
 
 
 
※ 岡山県の二ヶ所の遺跡で、6千年前の地層から、イネのプラントオパールが大量に見つかっている・・・
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
 
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。
 
 
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。

 

 

縄文GoGo旅編 第32話 7日目⑤

 

 

          アオキ村。夕食の広場。続き。

 

サチ  「ねえ、この子、何て言う名前?」
テーチャ  「カゼマルよ。」
サチ  「抱っこしてもいい?」
テーチャ  「いいわよ。待ってね。」
キサヒコ  「寒いといかん。この毛皮でくるんでやれ。」
テーチャ  「そうね。カゼマル(1歳、男)、良かったね。
       お姉ちゃんが抱っこしてくれるって。」
ミツ  「サチ、落としちゃダメだよ。後で代わってね。」
サチ  「カゼマル、よしよし。笑ってる!」
ミツ  「可愛いねー!」
カゼト  「お?不愛想なカゼマルが笑ってやがる。」
マサキ  「ホントだ!おれが抱いた時には泣いたくせに。」
テーチャ  「カゼマルは人を見る目があるのよ。
       ねーカゼマル、賢い子だもんねー。」
サチ  「あはは、足をバタバタさせてる。嬉しいんだね。」
カゼト  「キャッキャ言っている。おれの時と大違いだ(笑)。
      サチ、ミツと交代で、炊事場でいぶし番をしてくれんかな。
      カゼマルを抱いてない方が、火の係りだ。」
サチ  「はい。ミツ、行こう!」
ミツ  「うん。向こうに行ったら交代ね。」
カゼト  「ははは、仲がいいんだな。
      ところでマサキ、南の島のハタレの兄弟だが・・・」
 
 
 
タカジョウ  「なるほど、聞けば聞くほど狂暴な奴等だ。」
シロクン  「まだ徒党を組んではおらんようだが、この先は分からんな。」
マサキ  「とにかく、地元の衆は恐れ切っておる。」
イワジイ  「オロチに劣らぬ凶暴な兄弟と言う事か・・・」
テーチャ  「怖いねー。指を、骨ごと噛み砕いて食べるなんて・・・」
カゼト  「それでその兄弟だが、南の島のどのあたりが棲みかなんだ?」
マサキ  「いや、おそらくだが、今はもう南の島にはおらんぞ。
      セトの海のどこかの島だと思う。」
カゼト  「シロクンヌはセトの海に詳しかったな。どんな所なんだ?」
シロクン  「海は穏やかだ。島の数は多い。
        海に流れがあって、流れる方向が日に何度か変わる。」
キサヒコ  「ほう、面白い海だな。」
カゼト  「人が住む島は多いのか?」
シロクン  「住み付いているかで言えば少ないな。
        大きな島があって、そこには住んでいる。
        小島がすごく多いんだが、そこには住んでいない。
        飲み水に難儀する島が多い。」
タカジョウ  「カゼトはそのハタレの話を聞いて、どうしようと言うのだ?」
カゼト  「近くまで行って、調べてみるつもりでいる。
      おれに何とか出来る相手であれば成敗するが、
      話を聞いた感じでは、まあ無理だろうな。」
テーチャ  「旅に出るの?」
カゼト  「ああ。いろいろ調べて回るのが、カゼのイエの仕事だからな。」
イワジイ  「ほう。調べた事を、アマカミに報告するんじゃな?」
カゼト  「そうだよ。しかしなあ、島に渡るとなると・・・
      舟が必要だし、流れのある海で小島にたどり着くのは難儀しそうだ・・・  
      そうだ!シロクンヌ、船乗りになった兄弟がいると言ってなかったか?
      シロのイエは武のイエだ。その兄弟も強いのか?」
シロクンヌ  「ああ、強いぞ。腕っぷしは、おれより強いだろうな。」
カゼト  「会ってみたい。今どこにいるのか分かるか?」
シロクン  「東の海だ。黒切りが採れる島があって、その辺りだと思う。」
マサキ  「シロミズキならおれも知っている。
      カゼト、もし行くなら、付き合ってやろうか?
      丁度おれもそっちに行くつもりだったから。」
カゼト  「そうか、是非頼む!」
マサキ  「シロミズキがいれば心強い。3人でハタレの兄弟を探してみるか。」
カゼト  「シロミズキは一緒に行ってくれそうか?」
シロクン  「そりゃあ行くさ。ハタレの話を聞いて、動かんはずがない。
        おれだってミヤコの件が無ければ行っている。」
マサキ  「シロミズキは断りゃあせんよ。いつ出立する?」
カゼト  「そうだな・・・三日後でどうだ?」
マサキ  「了解だ。」
テーチャ  「でも、コシの件はどうしよう?」
カゼト  「それだが・・・シロクンヌ、途中、一ヶ所立ち寄ってみてもらえんか?」
シロクン  「どこに行けばいい?」
テーチャ  「そうか!イワジイやタカジョウにも見てもらった方がいいね。
       場所は、コシを流れる川の近く。シナの木の川。」
タカジョウ  「シナの川か。レンザの姉が襲われたのが、シナの川の川筋じだと思う。
        御山の向こうから、西に流れ出して北に向かう川だ。」
シロクン  「だがコシと言えば、海に近い辺りだな?」
テーチャ  「うん。舟で下れば半日で海に出るね。」
タカジョウ  「そこで何事かおこったのか?」
テーチャ  「黒い水が噴き出したの。黒石糊の沼の裂け目から。」
イワジイ  「何じゃと!詳しく教えてくれんか。」
シロクン  「待ってくれ。サチ達も呼んだ方がいいな。」
 
 
ミツ  「カゼマルは寝ちゃったよ。」
テーチャ  「ありがとうね。重かったでしょう?あたしが抱っこするね。」
サチ  「父さん、どこかに立ち寄るの?」
シロクン  「そうだ。今からその話をする。テーチャ、頼む。」
テーチャ  「ここに来る前、あたしはコシに住んでいたの。
       ふた月くらい前に大きな地震があったでしょう?」
シロクン  「明り壺の祭りの前だな。
        そっちでも相当揺れたのか?」
テーチャ  「ひどかったのよ。立ってられないくらい。
       方々で崖崩れもあったし、地面に段差も出来たんだよ。」
タカジョウ  「おれ達がいた所よりも酷そうだな。」
キサヒコ  「ここらも、そこまでは無かった。」
テーチャ  「それでね、地割れが起きたの。ウチの近くで。
       黒石糊が採れる岩盤のそばに沼があって、その周りで何ヶ所も地が裂けたの。」
ミツ  「黒石糊って、レンザが欲しがってたやつでしょう?」
シロクン  「そうだ。黒い石でな、割るとベタベタした黒い糊が採れるんだよ。」
イワジイ  「沼の水は黒いのか?」
テーチャ  「ううん。薄い緑色だった。元々はね。魚だって居たんだよ。
       それが、地震の後、水が減っちゃったの。
       その後、近くの裂け目から黒い水が湧き出して、沼に流れ込んだの。
       そして魚が全部死んじゃった。」
サチ  「黒い水は、毒なの?」
テーチャ  「多分ね。でも普通の水には混ざらなくて、浮くんだよ。」
タカジョウ  「黒い水の量は?沼一面をおおってしまったのか?」
テーチャ  「そう。どんどん湧き出して来てる。
       このまま行くと沼から溢れ出て、近くのシナの川に注ぎ込むかも知れない。」
イワジイ  「そりゃ大変じゃ!サケが登らんようになりゃあせんか?」
テーチャ  「そうなの。みんな、それを心配してる。
       そこより上流に、村がいくつもあるし、人もたくさん住んでるのよ。
       みんなサケが頼りだから・・・」
シロクン  「すぐにも川に流れ込みそうなのか?」
テーチャ  「一年くらい先には川まで届くってみんな言ってる。
       今大勢で、沼と川の間に盛り土を造ってるの。」
ミツ  「沼の横なら掘りやすいでしょう?
     掘って沼を広げたりはできないの?」
テーチャ  「それは無理。瘴気が凄いのよ。
       あたしのムロヤなんて沼の風下だったから、もう住めないわね。」
シロクン  「それでここに来たのだな。
        連れ合いは旅に出たと言っていたが、行き先は?」
カゼト  「アサマだ。ヒのイエの出先がある。火の山のふもとだ。
      おそらくそこに、ヒのクンヌがいる。」
 
 
 
※ 岡山県の二ヶ所の遺跡で、6千年前の地層から、イネのプラントオパールが大量に見つかっている・・・
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
 
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文、弥生、そして皇室。

 
 
 
歴史学では水田稲作の開始をもって、弥生時代の始まりとしています。
以前は弥生時代の始まりは2300年前となっていましたが、今では3000年前と遡りました。
これは、日本での水田稲作の始まりが3000年前だと修正されたためです。
しかし、その時その場で使われていたのは、縄文式の土器でした。
つまり土器様式を基準に見れば、縄文時代水田稲作は始まっていたと言える訳です。
そこで稲作開始基準ではなく、土器様式基準で時代区分を行った場合、つまり縄文土器から弥生土器への移行をもって弥生時代の始まりだとした場合、一つの重大な事実が浮かび上がります。
 
福岡県の板付遺跡、ここは縄文晩期の土器と弥生土器とが出土する、つまり縄文時代から弥生時代にまたがった遺跡です。
ゆるやかな丘陵地に竪穴住居跡を伴った居住区域があり、その丘陵地から少しだけ離れた場所に水田跡が見つかっています。
ここでは縄文晩期から、水田稲作が行われていました。
そしてこの遺跡の丘陵地を囲むように、環濠跡が見つかっているのです。
要するに、ここは日本最古級の環濠集落だったのです。
 
では、その環濠が、いつ掘られたのか?
最初から存在していたのではありません。
縄文土器が使われている頃、つまり縄文晩期には、水田はありましたが、環濠は存在していなかったのです。
環濠の出現と共に、土器も弥生式に移り変わりました。
つまり環濠が掘られた頃、縄文時代も終わりを迎えたと言っていいでしょう。
 
一万年にわたる縄文文化に終止符を打たせたもの、それは環濠だった訳です。
水田稲作縄文時代を終わらせたのではありません。
本質論で言えば、環濠集落とならしめたもの、それが縄文時代を終わらせたと言うべきでしょう。
それは戦争、しかもただの戦争ではありません。
皆殺し戦争です。
皆殺し戦争が始まって、縄文文化に終焉が訪れました。
 
 
大方の歴史系ユーチューバーの、この時代の解説を要約しますと・・・
 
水田稲作が始まって、米の備蓄が行われるようになった。
★その結果、持てる者と持たざる者の差、つまり貧富の格差が生まれた。
★持たざる村は、持てる村を集団で襲撃した。
水田稲作が原因で、一万年にわたる平和が崩れ、戦争が始まり環濠集落が出来た。
★そこに鉄の武器が加わって、大規模な戦争になることもあった。
 
・・・と、大体こんな感じの説明がなされているように思います。
そしてこれは、一般的大多数の歴史解説書の内容と一致しています。
 
ですがこの解説には、根本的な欠落があると言わねばなりません。
その欠落とは、環濠集落と言うものの持つ本質の見過ごしを差します。
言ってしまえば、環濠集落とは、皆殺し文化の現れなのです。
ここで行われたのは、皆殺し略奪戦争だったのです。
 
あのですね、弥生時代以降、持てる者と持たざる者の差、貧富の格差は、常に存在していましたよ。
鉄製の武器だって、むしろ進化する形で、常に存在していました。
しかし、日本の歴史において、環濠集落が存在していたのは、弥生時代だけなのです。
上記の理由で戦争が始まったのであれば、その後も環濠集落が存在し続けなければならないでしょう?
 
環濠集落とは、大陸文化そのものです。
大陸では、ずっと以前から環濠集落や城塞都市が存在し、そしてずっと以降まで存在し続けていたのです。
しかし日本の地では、弥生時代にあった環濠集落は、やがて無くなって行きました。
戦争の形態が変わったのだと思います。
その理由は簡単じゃありませんか。
大陸から、皆殺し文化、略奪文化を持った者達が渡来した。
一時、彼らの文化が大手を振ったが、やがて縄文人が意識の巻き返しを図った。
縄文人の意識とは、持てる持たざるの差があろうが、鉄器があろうが、戦争をしない文化です。
 
日本人は、ハッキリ認識するべきなのです。
日本の地で、縄文人が一万年の平和を築いている間に、大陸では、皆殺しの文化が発達していました。
その文化が、そのままの形で日本の地に持ち込まれたのが弥生の始まりです。
繰り返しますが、環濠集落と言う形態は、大陸そのものです。
居住地全域を、城壁で囲む文化ですから。
それまでの日本には無かったし、それ以降の日本にもありません。
もちろん城郭都市・堺とか長島一向宗の居住地とか、一部の例外はありますよ。
でも彼らは、一般の民とは別の括りでしょう?
 
民は常に、無防備の里で暮らしていました。
たとえば戦国時代、戦闘員は敵の戦闘員と、無人の原野で戦ったのです。
民は巻き込まない・・・そういう矜持を持っていました。
民家を焼き払ったりもしましたが、殺しまくったりはしていない。
 
皆殺し戦争の悲惨な有り様についての言及は避けますが、それが行われた証拠はいろいろ出ています。
この皆殺し文化の到来によって、縄文人の意識は大きく変わりました。
とてもそれまでの文化を維持することは出来なかった・・・それは容易に想像が付きますよね。
しかしそんな凶悪な文化も、日本の地では収束を迎えます。
それは縄文人が、意識の巻き返しに成功したからだと思います。
縄文人の意識が浸透し、やがて和の心が生まれました。
だから集落に環濠が無くなったのでしょう。
 
さて話は変わりますが、京都御所にはお堀りがありません。
塀だって、簡単な造りの物です。
その気になれば、容易に乗り越えられるし、打ち壊すことだって出来る。
これは国家最高権威者の住まいが、ほとんど無防備だと言ってもいい、世界でも極めて稀有な例なのです。
世間では、弥生時代に皇室は誕生したと見るむきも多いようですが、私はこの点に非常な違和感を覚えます。
この無防備さ、果たしてこれが弥生の意識でしょうか?
皇室は、弥生文化から起こったのでしょうか?
大陸に無い文化が大陸から伝わるはずが無い・・・自明の理ですよね。
この文化の根っ子は縄文にある・・・私はそう確信しています。
皇室と民との関係を支えて来たもの、それは間違いなく縄文の意識であると私は確信しているのです。
 
 
 
 

ウラ話③ ネバネバ②

 
 
そもそも大豆の来歴はと言えば、ツルマメの栽培種であるとされています。
逆に言えば、ツルマメとは大豆の原種だ、となりますね。
そのツルマメですが、少なくとも1万3千年前には存在していたことが分かっています。
もともと自然界に存在していたツルマメを人間が栽培しているうちに、それが大豆に変化していったというのです。
つまりどういう事かと言えば、ツルマメは小っちゃくて硬くて食べにくいのですが、その中から大きく実った物を選んで播種しているうちに、段々と豆ツブが大きくなって行って、やがて大豆となって定着したという訳です。
 
さて、中山誠二先生から納豆の実験の話を聞いてしばらく経った頃、図書館にて、とある本が目に飛び込んで来ました。
 

あらすじ・内容

アジア辺境の納豆の存在を突き止めた著者が、今度は、IS出没地域から南北軍事境界線まで、幻の納豆を追い求める。隠れキリシタン納豆とは。ハイビスカスやバオバブからも納豆がつくられていた!? そして、人類の食文化を揺るがす新説「サピエンス納豆」とは一体。執念と狂気の取材が結実した、これぞ、高野ワークスの集大成。

 

<サピエンス納豆>?
これってもしかして・・・
で、さっそく手に取っていました。
すると、やっぱりそうでした。著者の高野秀行さんは、中山先生と出会っていたのです。
 
 
          大豆が先か?納豆が先か?
 
縄文時代に対する考え方として、狩猟がメインで採集や漁労も行われていたと、最初は思われていました。
それが、いやいや植物栽培だってやっていたんじゃないの?となります。
そして、海辺で養殖だってやっていたかもしれないよとなっていき、今では、沖縄ではブタを飼ってたかもしれないよ?という意見さえ現れました。
縄文中期には「農耕」が行われていたという見解もありますし、とにかく縄文人の生活実態については、30年前とは違ったイメージで描かれるケースも多々あります。
 
そんな中、『縄文GoGo』の作者としての私にも目論見があります。
それは、世間一般が持つ縄文人のイメージを根底からくつがえし、幅広い意味でカッコいい・・・そんな人達が暮らす時代であったという風に描いてみたい訳です。
そして高野さんが提唱した<サピエンス納豆>という発想は、まさにそれに一役買ってくれているのです。
 
つまり普通に考えればですね、まず大豆があり、そこにコメ作が渡来し稲藁が手に入る。
そしてある日、稲藁にくっ付いていた大豆が、偶然による何らかの作用から、納豆に変化しているのが見つかった・・・
納豆誕生の背景に、そういう流れを想像するのが自然ですよね?
ところが高野さんは、大豆が納豆を生んだのではなく、納豆が大豆を生んだのかも知れない・・・と、こうおっしゃる訳です。
 
そもそも縄文人は、なぜあんなに食べにくいツルマメなどをわざわざ栽培したのでしょうか?
それは、ツルマメを食べやすくする方法を知っていたからではないのか?
食べやすくする、つまり柔らかくする方法、消化しやすくする方法・・・
それこそが発酵させて納豆にすることだったのではないでしょうか?
もしかすると、大豆が登場する5千年前よりももっと以前から、縄文人は納豆を作っていたのかも知れません。
<サピエンス納豆>を。
 
まずツルマメ納豆があり、そして大豆が生まれ、そのあとに稲藁が渡来し現代的な納豆になる・・・
そのひらめきについて、高野さんは中山先生に意見を求めます。
そして、その可能性は十分ありますよ、となり「南アルプス市ふるさと文化伝承館」では更に実験が続けられる事になります。
 
材料とするのは、ツルマメ。
枯草菌の素となる葉っぱは、トチ、ササ、アシ、ススキ、クリ。
すり潰したツルマメを使ったりして(ひきわり納豆ですね)、試行錯誤を重ねた様です。
 
ウラ話でネバネバを取り上げるにあたり、私は再び「南アルプス市ふるさと文化伝承館」に電話取材をしました。
「クリの葉で作ったものは、本当に美味しいですよ。」
女性職員の方はそうおっしゃいました。
どうやら実験に成功したのかな?
 
そして勝手にですが、私は確信しました。
クリの葉とツルマメで美味しい納豆が出来るのであれば、中部高地の縄文人は、ツルマメ納豆を作っていたに違いない!
だってウルシの樹液を使って、漆という塗膜を発明したのが縄文人ですよ。
ここで詳しくは書きませんが、これは非常に高度な技術を要することなのです。
ウルシと並んで縄文を象徴する植物、それがクリです。
彼らは栗の実を食べ、栗の柱の住居に住んでいました。
クリの樹は、常に彼らの身近にありました。
クリの葉っぱだって、きっと何かに利用していたはずです。
 
私のような素人はそうやって勝手に決めつけて満足していてもいいのですが、専門家はそうはいきません。
常にエビデンスを求められ、客観的な事実の提出を迫られます。
しかし納豆そのものが5千年前の地層から出土する事など、金輪際無いでしょう。
ですから状況証拠の積み重ねをすることになります。
そこで中山先生は、当時存在していた物と技法、それだけを使ってどうやればツルマメにバチルス属サブティルスという納豆菌とまったく同じ菌を発生させられるか・・・
その実験に成功し、論文にまとめ、それを今年の5月29日に行われた日本考古学学会で発表したそうです。
「いや、6年掛かりましたよ。」
嬉しそうに、そうおっしゃっていました。
 
私は思うのです。
遺跡から出た物は、有ったと言っていい。
しかし出ていないからといって、無かったとは言い切れない。
そうではあっても考古学という分野において、出ていない物を有ったと証明する行為は、非常に困難を伴う事だと思います。
いや困難では済まず、不可能なのかも知れません。
 
一般に縄文文化と言えば、まず土器や土偶が思い浮かびます。
土器や土偶で、縄文文化の大半を語ろうとする人も多いと思います。
でもそれは、土器や土偶が地中で保存されやすかったからです。
だからこそ、ユニークな焼土製作品がたくさん出土したのです。
 
対して地中で消滅してしまった物も多いでしょう。
いやむしろ、そちらの方が遥かに多いはずです。
その中にも、素晴らしい文化があったはずでしょう?
氷期が終わり温暖な気候となり、植物相も現代に近づきます。
草原や針葉樹林帯だった場所が、食べられる木の実が生る広葉樹林帯となって、定住が始まり縄文時代の幕が開きます。
それを思った時、縄文とは、じつは植物の文化が花開いた時代だったのではないか?
・・・そんな気がしてならないのです。
 
たとえば樹皮や板に、ユニークな絵画が描かれていたかも知れない。
驚くような木工品や木の道具があったかも知れない。
当時はおそらく誰もが縄を綯(な)い、糸を撚(よ)り、籠(かご)を編んだのだろうと思います。
そして中には、とんでもなく精工な創りの物が有ったような気がしてなりません。
現代でも再現不可能な物が。
 
そこへ持って来て「食」です。食文化です。
1万年前に、もしかすると植物から発酵食品が作られていたかも知れないなんて、空想するだけで浮かれちゃいますよ。
日本文化の原点を覗き見た気分になりませんか?
 
縄文時代は分からない事だらけ・・・
出土した物というのは、じつは縄文文化の一側面に過ぎないのかも知れません。
出土した物だけでさえこれほど魅力的なのに、本当はもっともっとファンタスティックな世界・・・
それが縄文時代の実相だったのかも知れませんね。
 
 
 
 
 
 

ウラ話② ネバネバ①

 

 

     今回の話題は、「ネバネバ」です。

 
縄文GoGoの物語の中で、ウルシ村は長野県の何処かだという設定です。
そのウルシ村のそばには「飛び石の川」が流れていて、その下流沿いに、シカ村、アマゴ村、ツルマメ村と続きます。
つまりツルマメ村は山梨県のどこかなのですが、そこではオオ豆を栽培していて、「ネバネバ」と呼ばれる加工食品を作っている事になっています。
 
縄文GoGo第37話
ハニサ  「スサラはアマゴ村の出身だから、その辺、詳しんだよね。」
ヤシム  「もうヤッホ!こぼさずに食べれないの?私の靴に、タレが付いたでしょ!」
ヤッホ  「おまえが近くにいるからだよ。
      アマゴ村の向こうにはツルマメ村があって、豆作りが盛んだって聞いたぞ。」
スサラ  「そうよ。豆料理もいろんな種類があるわね。ネバネバっていう食べ方もあるわよ。」
ハギ  「それ、一度だけ食べたことあるよ。
     最初は、何だこれ、腐ってないか?って思ったけど、食べ出すとクセになるんだよな。」
シロクン  「ネバネバ?いったいどんな・・・」
 
会話はここで途切れてしまうのですが、シロクンヌはその後も、ネバネバの正体が気になってしょうがありません。
ハニサにネバネバを食べた事あるか?と聞いたりしています。
そしてその後、スサラの妹のサラがハギに嫁いできて、ネバネバを作って見せます。
 
縄文GoGo第148話
サラ  「出来たよ。食べてみて。なかなかいい出来だよ。」
ハギ  「旨いぞ。」
オジヌ  「何が出来たの?」
ハギ  「ネバネバだ。サラが四日前から仕込んでたんだ。」
カタグラ  「ああ、前、話に出たやつだな?」
ナジオ  「ツルマメ村が本場なんだよな?」
シロクン  「ネバネバ? これがそうか?」
サラ  「そうだよ。私、みんなを呼んで来る。」
 
スサラ  「美味しい! あんた上手に作ったね。」
ハギ  「旨いよな? 前に食べたのよりも旨いもん。」
ヤシム  「でもこれって・・・腐ってないの? ヤッホの足のニオイがするよ?」
ヤッホ  「何でおれの足が腐ってるんだよ!」
エミヌ  「そうそう、オジヌの靴もこんなニオイ。」
オジヌ  「ねーちゃん、いい加減な事言うなよ!」
カタグラ  「ふむ・・・おれの足もこんなニオイだな・・・」
ハニサ  「シロクンヌの足はこんなニオイしないよ。」
アコ  「いーかげんに足のニオイから離れろよ。食べてみると美味しいぞ。」
ヌリホツマ  「ほう・・・わしは初めて食べたが・・・これは旨いの。
        どうしてオオ豆がこんな味になるんじゃろうか?」
シロクン  「ネバネバという言葉で以前から気になっていたんだが・・・うん、旨いな・・・
        これは何かで味付けがしてあるのか?」
サラ  「してないよ。オオ豆を茹でて、その後にトチの枯れ葉でくるんだの。
     それを炉のそばで温めておいただけだよ。」
クマジイ  「不思議じゃのう。それだけで、こんなに味が変わるもんなんじゃな。」
ナジオ  「くせになるってのは分かるな。美味しいよ、これ。」
テイトンポ  「い、いかん! おれは、どうしても、これは口に出来んっ!」
アコ  「どうして?」
テイトンポ  「おれの、足のニオイに似ているからだっ!」
アコ  「だから、足のニオイから離れろって!」 みんなが、笑った。
 
さて、もうお分かりでしょうが、ネバネバとは、納豆です。
でも舞台は5000年前の縄文時代
納豆なんで無かっただろう。大体、稲わらが無いのに、納豆なんて無理だよ。
・・・普通、そう思いますよね?
実際、私もそう思っていました。
 
私は『縄文GoGo』の中で、縄文人にいろんな事をさせています。
鷹狩り、養蜂、スッホンの養殖・・・
これらはもちろん、私の空想の産物です。
もしかしてもしかすると、やってたかも知れないでしょ?と言うレベルのお話です。
 
でもですね、納豆に関してはそうじゃないんです。
本当に有ったかも知れないんです。
私がそれを知ったのは2年前でした。
縄文時代の植物について知りたい点があり、愛知県埋蔵文化財センターに電話してみたのです。
すると職員の大半の方が発掘作業で出払っていたようで、応対して下さった方が、今ここでは分かりかねるのでと言う事で、植物なら中山誠二先生が詳しいですよ、と教えてくれました。
 
中山誠二先生?存じ上げなかったので、ググってみました。
すると帝京大学付属研究所の教授で、「南アルプス市ふるさと文化伝承館」の館長さんだとあります。
専門は、植物考古学。
なんだか偉い先生の様だし、どうしようかと一瞬迷いましたが、思い切って「南アルプス市ふるさと文化伝承館」に電話してみました。
それが2年前の出来事です。
 
「館長は、週に二日だけこちらに来ます。次は・・・」
電話に出られた女性職員の方がとても親切な方で、中山先生は不在でしたが、私は用件を伝え、また改めて連絡しますと電話を切りました。
そして鶴舞中央図書館に走り、『マメと縄文人』を借りたのでした。
 
『マメと縄文人』、ど直球なタイトルですよね。
著者はもちろん、中山誠二先生。
 

電話でお話させて頂く前に、一冊は著書に目を通しておこうと思った訳です。
ところがこの本、実に硬派な専門書なのです。
土器の圧痕レプリカ法を用いてツルマメがダイズに移行して行く様子、などを研究した学術書で、走査顕微鏡写真がふんだんに登場し、圧倒的な読み応えで、ここまで念入りに考察するものなのですねと、私などは畏れ入ってしまいました。
それまでも同成社の「ものが語る歴史」シリーズは何冊か手に取っていましたが、他と比べても飛び切りの研究量の成果報告ではないかと思いました。
 
こりゃ大変な先生だな、怖そうだし、やっぱ電話はやめとくか・・・
そうも思ったのですが、数日後、恐る恐る電話してみました。
すると前回の女性が電話に出て、私が名を告げると、はいはい、館長におつなぎします、少々お待ち下さいねととても愛嬌よく応対して下さって、少し安心しながらも緊張は高まって来ます。
 
忙しいのに何の要件だ、みたいに不愛想に応対されるんじゃないか?
実際、私は何度かそういう経験をしていました。
めんどくさそうに説明されたり、少し突っ込むと説明も無く断言されたり・・・
そう断言できる根拠は何ですか?・・・そういう質問をして、何度も嫌がられました。
県や市が運営する○○博物館。そんな所の学芸員にもそういう人って多いのです。
縄文土器って水が漏るんですよ。」そう断言されて、びっくりした経験もあります。
 
しかし、それらの心配が杞憂であった事が、直ぐに分かりました。
中山先生の電話第一声を、私は今でも覚えています。
「いやー○○さん(私の名前)、縄文時代ってね、分からない事だらけなんですよー。」
挨拶の後、いきなりこれですよ。
私は思わず膝を打ちました。これこそが、研究者の態度だと感服しました。
どんな分野であれ、自信のある人って背伸びしませんもんね。謙虚で、ありのままです。
非常に気さくな方で、私の「縄文時代に竹はあったのでしょうか?」という質問に対しては、専門から外れているようで明快なお答えは頂けませんでしたが、その代わりにとても興味深いお話が伺えました。
 
 
中山先生 「○○さん、今ここでは面白い事をやってましてね、納豆を作っているんですよ。」
 
              何だって!
 
私 「なっとう?納豆ですか?でも、麦わらって無かったでしょう?」
中山先生 「麦わら以外の枯草菌を使うんですよ。」
私 「え?そんな事、出来るんですか?」
中山先生  「出来ますよ。アシ、ススキ、トチ。
       トチの葉で作ったのが、職員には一番人気ですね。」
私 「食べたんですか!」
中山先生 「もちろん、食べますよ。
      まだ、あれこれと試している最中ですけどね。」
私 「縄文人が、納豆を作っていたんですか?」
中山先生 「断定は出来ませんよ。可能性は有りますが。」
 
びっくりしました。
いや、縄文時代に納豆があったかも知れないと言う点についてもですが、それを真面目に研究している人がいたのです!
南アルプス市ふるさと文化伝承館」では、館長さんが中心になって、職員さんが協力して縄文納豆の可能性を探っていたのです。
なんとロマンあふれる研究ではありませんか!
正直、私は感動してしまいました。
 
                       つづきます。
 
 
 

縄文のコトダマ

 
 
縄文人の信仰について、アニミズムであったとするのが考古学界の主流のようです。
アニミズムとは何かと言えば、世の中すべての物、生物であれ無機物であれ、とにかくすべての物に霊が宿っているという考え方だとされています。
精霊信仰と訳されたりもします。
でもなぜ縄文人=アニミズム、そう言えるのか?
その納得のいく説明を、私はまだ目にしたことがありません。
推測するに、アイヌの宗教観を参考にしたのではないでしょうか。
 
でも私は、縄文人の自然観、宗教観をアニミズムとは別のものだととらえています。
縄文人の宗教観を構成する要素としてはいくつかあるのでしょうが、一つは言霊(ことだま)信仰。
もう一つは怨霊信仰。
その二つが関わっているのではないかと思っています。
つまり、現代日本人と同じですね。
日本人は無宗教だと言われたりしますが、とんでもありません。
言霊と怨霊。無意識のうちに、この二つには囚われているのではないでしょうか。
 
怨霊信仰については別稿に譲るとして、ここでは言霊信仰について考えてみたいと思います。
 
島国であるために、日本人は特異な歴史を歩んで来ました。
その結果、日本人ならでは、というのが多々ありますよね。
たとえば、日本語。
日本語は孤立語だと言われています。世界中のどの言語とも似ていない。
言語学では、日本語の起源については様々な説があり、いまだにコレだとは決まっていないようです。
でも見ていると、まるで外国の、どこかの言語に起源を求めなければならないと決めつけているような感じもします。
しかし、現代日本人のY遺伝子、つまり父方の祖先を調べてみると、縄文人にたどり着くのです。
もちろん混血はしています。ですが侵略もされていないし、民族交代もありません。
これからしても、日本語の起源は、縄文語なんじゃないですか?
縄文時代は一万年に及び、その間、大陸との交流は少なかったのです。
当然、独自の文化が育まれました。言語もその一つでしょう?
そしてこの間、日本列島の中では、人々は自由に行き来していました。
遺跡からの出土品が、それを証明しています。
たとえば一万年前の長野県の遺跡から、海の貝の装飾品がたくさん出ています。
それも貝の生息地を調べてみると、一ヶ所の海ではないのです。
 
方言はあったでしょうが、現在よりも、むしろ少ないかも知れませんよ。
なにしろ領地という概念が無かったのです。つまり、どこに行こうが自由です。
土器形体の違いから、地域による文化圏の区別をすることは可能ですが、縄文でくくれば共通文化です。
弥生以降、列島内での争いが生じました。
その結果、自由な往来は出来にくくなったでしょう。
すると閉ざされますから、言語にも地域色が出て来ます。
 
弥生以降、渡来人が様々な言語をもたらしました。
その人達との混血で、現代日本人がいます。
言語も同じで、縄文語との混血で日本語が出来たのではないでしょうか。
しかしあくまで、ベースとなっているのは縄文語です。
だから日本語は、世界でも特異な言語なのです。
縄文人のY遺伝子を持った男性は、大陸にはほとんどいません。
唯一の例外が、チベット高原です。
標高4千メートルの、攻め込まれない場所ですね。
 
日本語の特徴、それは一語一音節で、一語一語を明瞭に発音する点に現れています。
この特徴は、アイヌ語にはありません。
世界中の言語の中で、ほぼ日本語だけではないかと言われているようです。
母音も子音も、しっかりと発音するのが日本語です。
日本語で「ストライク」と言えば5音節ですが、英語で「strike」と言えば1音節です。
 
この日本語の特徴から、面白い現象が起きているようです。
日本人は虫の鳴き声を聞いて風流だと感じるのですが、驚いたことに、西洋人にとっては雑音にしか聞こえないと言うのです。
そもそも「虫の声」と言うでしょう。擬人化していますよね。
海が「唸(うな)る」と言いますし、小川の「せせらぎ」とも言います。
つまり日本人は、自然界の音に親しみを感じているのです。
これは日本人が、自然が発する音を、言語脳(左脳)で処理する稀有な民族だかららしいのです。
対して西洋人が言語脳で処理するのは、文字通り会話音程度です。
 
でもこれは遺伝子に原因があるのではなく、幼少期に使っていた言語に原因があるらしいのです。
音の捉え方について言えば、10歳まで日本語で育てば西洋人でも日本人のような感覚になるし、逆に英語で育てば日本人でも西洋人の感覚になるようです。
日本語の持つこれらの特徴は、縄文語にもあったのではないでしょうか?
もしかすると縄文語の方が、もっと研ぎ澄まされた効果をもたらしたのかも知れません。
 
私は『縄文GoGo』の中で、鹿や猪はあっさりと殺すくせに、樹を伐る前には大袈裟に祈りを捧げている縄文人の姿を描いています。
これはもちろん、意識してそう描いているのですが、それにはいくつか理由があります。
その一つが、縄文人には樹の声が聞こえていたのではないか?という思いがあるからです。
つまりですね、動物に対しては、急所を攻撃してなるべく苦しまないように、とどめを刺していたと思います。
ところが大樹となればそれはできません。
何百何千回と石斧を打ちつけ、倒すまでにはかなりの時間がかかります。
それに石斧とは、幹を切るのではなく、削り取る道具なのです。
ある意味、石斧で樹を伐る光景は、残酷なのです。
 
森に立つと葉や梢のそよぎが聞こえます。
石斧を打ちつけても音がします。
倒れる時には、それこそミシミシバキバキと大きな音が出ます。
それらの音を、もしかすると樹が発する声と捉えていたかも知れません。
 
樹だけではありません。
水が滴る声。雨が降る声。風が吹く声。地面を掘る時の声。石を加工する時の声。
これは、あらゆる物に霊が宿っているのではなく、命が宿っているということです。
つまり縄文人は、あらゆる物に息吹きを感じていたのではないでしょうか。
石も土も水も風も、もちろん樹も、自分達に近しい息吹く存在だったのかも知れません。
ハッキリとそう認識していたというよりも、ぼんやりとそう感じていたのではないかと、私は思っているのです。
 
そういう自然観が根底にあり、そこから少し飛躍しますが、言葉というものに対して、特別な思い入れが生じたのではないかと思うのです。
霊が宿るのは、世の中のあらゆる物にではなく、言葉そのものに霊が宿ると考えたのではないか。
そこで生じたのが、言霊信仰です。
 
この言霊信仰は、その後も脈々と日本人に受け継がれました。
そして現代日本人を、強烈に縛り付けています。
平和憲法が日本を護る」という発想は、言霊信仰そのものです。
憲法九条が日本を護る」と口に出して言えば、それは日本人にとって、立派に呪詛となり得ます。
 
日本人は、感染症に対しては猛烈に対策を講じました。
危機意識のかたまりと言ってもいい。
ところが現在の国際情勢を目にしても、なんら防衛策を講じようとしていません。
これこそが、縄文人現代日本人にもたらした、負の遺産ではないかと私は思っているのです。
 
世界中の人々にとって、憲法とは時代の変化に伴って改正して行く存在です。
情勢の変化に対応して話し合って改正して行く、当たり前ですよね?
私は今まで、日本には世界最古がたくさんあると言って来ました。
ここで一つ追加しておきます。
世界中の現行憲法の中で最古のもの、それは日本国憲法です。
75年間、改正どころか、話し合いも行われていません。
言霊には、議論すらさせない作用もあるのです。
 
 
 

縄文GoGo旅編 第31話 7日目④

 
 
 
          アオキ村。夕食の広場。
 
タカジョウ  「シシ腿の塩漬け、切り分けて来たぞ。おれ達の分だ。」
テーチャ  「今、摘まんでみたけど、美味しいのね!
       炊事場では、みんな、美味しい美味しいって大騒ぎよ。」
タカジョウ  「そうだったな(笑)。そら、コノカミ、食べてみてくれ。」
キサヒコ(男・33歳)  「おおすまんな。どれ、ウワサには聞いたが・・・
             旨い!初めて食ったが、旨いもんだな!」
カゼト  「なんだこれは!口の中でとろけるぞ。」
イワジイ  「久しゅう食うておらなんだが・・・ほう!こりゃ上物じゃ!」
マサキ  「ほう、薄いのか・・・
      どれ・・・なんと!ホントにとろけるんだな。」
サチ  「ミツ、やっと食べれるよ!」
ミツ  「うん!美味しい!」
シロクン  「ははは、お預けだったもんな。」
 
 ここでテーチャは乳飲み子をおぶっているが、服を着た上からおぶっているのではない。
 素肌に直接裸の子をおぶって、その上から服をまとい、その上から帯を締めて支えている。
 子が泣くと、そのままクルリと腹側に移動させ、乳を飲ませるのだ。
 
イワジイ  「それで蒸し室はどうじゃった?三人で入ったんじゃろう?」
サチ  「暑かった!でも気持ち良かった。ミヤコの人にも教えてあげる!」
ミツ  「出た後に冷たい水を浴びると、シャキッとするね。」
テーチャ  「あたし、初めて入った。中で火を焚くのは駄目なの?」
イワジイ  「いかんぞ!明りは手火立てで二本。それ以上はいかん。
       熾きなどもっての外じゃ!瘴気でやられる。死んでしまうぞ。」
ミツ  「手火に器をかぶせると火が消えるけど、同じ意味?」
イワジイ  「ほうじゃ。」
サチ  「掘る場所って、どこでもいい訳じゃないでしょう?」
イワジイ  「ほうじゃ。ほいじゃが、口で説明するのは難しいが・・・」
カゼト  「多分、ハニのイエの者なら分かるよ。」
サチ  「そうだね。それに掘らなくても、張り屋みたいなやり方もあるし。」
キサヒコ  「イワジイのお陰で村の名物が増えた。
       旅の者も癒される。ありがとうな。」
イワジイ  「なあにコノカミ、お安い御用じゃ。」
カゼト  「ところで、女衆も裸で入ったのか?」
テーチャ  「そうよ。まさかカゼト、あんたどっかに潜んで、覗こうとしてないわよね?」
ミツ  「してそう。」
サチ  「水浴びの時がアブナイよね?」
タカジョウ  「カゼトなら、やりたい放題だぞ(笑)。」
マサキ  「ハハハ、間違いない。」
イワジイ  「わしにもその技を教えてくれんか。」
カゼト  「何言ってる。覗きなんかするもんか。」
シロクン  「よく言うぞ。」
キサヒコ  「ははあ、さてはカゼト、また旅の衆に悪さをしたな?」
シロクン  「ああ、おれをハメようとした。テーチャと組んで。」
キサヒコ  「テーチャも悪乗りするからな。困った奴等だ(笑)。」
テーチャ  「えへへ。」
シロクン  「テーチャ、その子の父親はどこにいるんだ?」
テーチャ  「旅に出ちゃった。あたしとこの子をこの村に預けて。
       カゼのイエの人なのよ。」
キサヒコ  「随分昔からの言い伝えなのだが、南の湖の向こうにカゼの里があったらしいのだ。
       この村とも行き来して、良い付き合いだったらしい。
       ところがある日、大雨が降って、土石流で押しつぶされてしまったと言うのだ。」
カゼト  「一夜にして埋まってしまったらしいぞ。
      犠牲者も多く出たが、助かった者はこの村の世話になった。
      以来ここは、カゼのイエの連絡場所になっている。」
シロクン  「そうだったのか!
        それで分かったぞ。
        ここから北に続く塩の道、そのブナの木の・・・」
カゼト  「ヲシテか?」
シロクン  「ああ。誰が彫ったのか不思議に思っていた。」
タカジョウ  「ヲシテだと?」
サチ  「ヲシテがあるの?」
マサキ  「ヲシテって何だ?イワジイは知っておるか?」
イワジイ  「いや知らん。初めて聞くのう。
       ミツ、知っておるか?」
ミツ  「私も初めて聞いた。イエにまつわる何か?」
シロクン  「ああ、そうだ。
        やはり、タカジョウも知っていたな?
        塩の道に面白いものがあると言っていただろう。
        それがヲシテだよ。」
タカジョウ  「ヲシテは師匠から一通り教わった。
        絶対、人には話すなと言われてな。
        イエの者なら知っていると言うことか・・・」
イワジイ  「じゃから、そのヲシテとは何じゃい?
       教えてくれても良かろうが。」
シロクン  「言の葉の、書き記しだ。モジとも言う。」
イワジイ  「何じゃと!言の葉の・・・
       コノカミやテーチャは知っておったのか?」
キサヒコ  「ヲシテがあるのは聞いていた。
       しかし読み方は知らん。」
テーチャ  「私も同じ。この子に教える時に、あたしにも教えてくれるみたい。」
イワジイ  「驚いたぞい。言霊(コトダマ)を操りよるのか?」
カゼト  「もちろん悪用はせんよ。
      地図の補足のために書いたのだ。
      それに、石に刻んだりはしていない。樹の幹だ。
      ブナの幹に彫ったのだ。とこしえには残ったりしない。」
シロクン  「普通は乾いた粘土版に彫ることが多いな。
        そしてその粘土版は、決して焼きはせん。
        不要になれば、水で湿らせ崩してしまう。」
ミツ  「なんか、よく分からない。
     サチ、詳しく教えてよ。」
サチ  「父さん?」
シロクン  「ああいいさ。教えてやれ。」
サチ  「言の葉には、一枚一枚に意味があるのは知ってる?」
ミツ  「少しだけ。は、開く意味だよね?ける、かるいの
     逆に、は閉じる意味。める、つむく、めくの。」
マサキ  「は積極性だ。いーと言う時、口が前に出るからな。口と言うか、舌が。
      く、のち、きの。」
サチ  「そう。は出るもの。っぱ、らう、れる・・・
     は調和。ごやか、めらか、かま、らぶ、めす・・・
     だから、はなは出ていてまとまったもの。
     顔の鼻や地面から出ている花。」
イワジイ  「はしっこの意味の端(はな)もあるのう。」
サチ  「うん。はーって伸ばすとになるでしょう?
     なーって伸ばすとになる。
     だから同じの組。は、ける、かるいだったでしょう?
     だからはなと言えば、ける、かるい感じがするの。
     さわやかなかまも全部になる。ける、かるい感じがするでしょう?」
キサヒコ  「なるほど・・・他に、の組、の組、の組、の組があるのだな?」
サチ  「そう。それは横の組で、縦にも組があるの。
     例えば、と同じ組は、
     こすってる感じがするでしょう?
     そういう風に組分けして、言の葉一枚一枚を形にして書いたのがヲシテ。
     昔、アヤのイエで考え出されたの。」
シロクン  「そうなのか!アヤのイエが・・・それは知らなかった。」
カゼト  「シロクンヌはクンヌのくせに、要所要所で知らん事が多いんだな(笑)。」
シロクン  「そうなんだよ・・・
        こんなことで、アマカミになって良いものなのかと思ったりするぞ。」
カゼト  「のんきな男だ(笑)。」
イワジイ  「しかしサチ、それを知った者は、コトダマを操れるようになりはせんか?
       その気になれば、人に呪詛をかけられようが。」
シロクン  「ふむ。確かにそれは言える。コトダマの力が強まるからな。
        魂写しをしていない粘土であっても、ヒトガタを作り、
        そこに名を刻めば本人になる。
        それを踏みつければ・・・」
カゼト  「白樺の皮に[もえよ]と書いてムロヤに埋めて置けば、
      いつかそのムロヤは火事を出すだろうな。」
テーチャ  「わー、怖い。」
タカジョウ  「そうか。だからむやみに伝えてはならんのだな。
        ハタレが知ったら大ごとだ。」
シロクン  「イエの者にしか伝えてはいけないとなっている。
        だからイナは知っているが、テイトンポは知らん。
        テイトンポが知ったところで悪用するとは思えんが、それが掟なんだ。」
イワジイ  「なるほどのう。」
ミツ  「言の葉を書きしるすなんて、思ってもみなかった!
     サチのご先祖様はすごいんだね。
     言の葉では、他にどんなことが出来るの?」
サチ  「例えばね・・・もう一つ、名前を作ったりできるよ。新しい名前。
     やってみようか?
     言の葉の中で、一番強い言の葉は、なの。わめる、るの
     キッ って言うと、いかにも強いでしょう?
     だから父さんをひと言で表せば、
     そしてお姉ちゃん(ハニサ)は、
     は、まろび優しく受け止める意味があるの。きの
     つる、ずの
     そして父さんとお姉ちゃんは、祈りの丘に誘(いざな)われて出会ったでしょう。
     もしかすると、お互いに、相い誘(いざな)って、出会ったのかも知れない。
     そんなだから・・・
     父さんは、イザナキ。お姉ちゃんは、イザナミ。」
 
 
やまとことば 参考資料  林英臣 縄文のコトダマ  
本稿には、林先生の発言をそのまま引用させていただいた部分が多々あります。
作者としまして、無許可での引用の非礼をお詫びすると共に、学ばせて頂いたことに対し、林先生には深く感謝し、お礼を申し上げます。
 
縄文人の言霊信仰。
それが現代日本人に落とす影について、私見を持っております。
それは別稿で詳しく触れてみたいと思っています。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト