縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

お祭り前日 第77話 13日目①

 
 
 
          朝の広場。祭りの前日。
 
ササヒコ  「紹介する。わしの下の下の弟の息子達だ。
       オジヌが16歳。
       カイヌが14歳。
       シロクンヌ、今日一日、助手に使ってくれ。」
エミヌ  「叔父さーん。タマが、私も行っていいって。
      シロクンヌ、お話しするの初めてよね。私はエミヌ。よろしくね。」
ササヒコ  「二人の姉のエミヌだ。19だったか?」
エミヌ  「まだ18よ。」
シロクン  「そうか、じゃあ三人共よろしくな。
        三人が手伝ってくれるのなら・・・アケビ採りをやってもらおうか。
        おれは後からハニサを背負って駆けて行くから、三人は歩いて先に出てくれ。
        岩の温泉の行き方は知ってるか?」
オジヌ  「おれが知ってる。緊張するなー! ハニサと口きくの、5年ぶりだ。」
エミヌ  「この子、昔っからハニサのことが好きだったのよ。
      ハニサからもらった松ぼっくり、まだ大事に持ってるんだから。」
オジヌ  「うるせーな。姉ちゃんは足手まといだから、来なくていいよ。」
ハニサ  「覚えてる! あたし、森のどんぐり拾いで、オジヌに助けてもらったんだ!
      猿を追っ払ってくれたんだよね!」
オジヌ  「うん、そんなことあったね。」
エミヌ  「へー、やるじゃない。じゃあシロクンヌ、先に行ってるね。」
シロクン  「ああ、すぐ追いつくよ。そこからは一緒に行こう。」
ムマヂカリ  「シロクンヌ、ちょっといいか?
        あれから考えたんだが、ハニサは高所での作業になるんだよな?」
ハニサ  「あのサルスベリ、結構高いからね。」
ムマヂカリ  「シロクンヌが肩車するんだろう?」
シロクン  「そうだ。そうか! おれの足場が要るな!」
ムマジカリ  「それも一緒に、今日作ってしまおうと思ってな。
        そこで、どんなふうにすればいいかの相談なんだが・・・」
 
 
          アケビの谷。
 
ハニサ  「そう! その白の粘土だけを取って欲しいの。」
シロクン  「この細い部分だけか。結構、難儀だな。
        分かった、粘土は任せてくれ。」
 
 
ハニサ  「ありがとう! 袋一杯になったね。疲れたでしょう?」
シロクン  「エミヌの方はどんな感じだ?」
エミヌ  「こっちも袋一杯にアケビが採れたわよ。」
シロクン  「おれはハニサを背負って、一度戻る。
        そのアケビの袋、一緒に持って行くよ。
        三人は残って、山ブドウを採っていてくれ。」
オジヌ  「えー! 粘土の袋も持って行くんでしょう?」
カイヌ  「ハニサを背負って、袋ふたつって・・・」
ハニサ  「シロクンヌ、あたし歩こうか?」
シロクン  「なに言ってる。釣り合いが取れるから、二つ必要なんだ。
        こうしてこの縄を、腰縄から背中を通して右肩から前に持ってくる。
        こっちは左肩から前に持ってくる。
        オジヌ、縄と肩の間に、そこにある木の皮を挟んでくれ。」
オジヌ  「これでいい?」
シロクン  「よし、こうすると、縄が肩に食い込まんだろう?
        この縄の先に、袋を結ぶんだ。
        ここで背負い帯を巻いて・・・
        ハニサ、背中に来い。」
ハニサ  「そうか。スワから帰って来る時みたいだね。」
シロクン  「だろ? サチの代わりに、粘土とアケビだ(笑)。
        時間が惜しい。ハニサ、いきなり飛ばすぞ。」
 
オジヌ  「スゲー!」
カイヌ  「なんであんなに速く走れるの?」
エミヌ  「シロクンヌ、カッコいい!」
 
 
          漆林。サルスベリの移植。
 
テイトンポ  「アコ、あの棒の先端にぶら下がれ。
        シカダマシ、根土が浮いた隙に、これで下根をできるだけ切れ。
        ハギ、下根が切れたら、この棒を下に差し込め。
        おれはこの縄を引く。
        ヤッホはそこで、わっしょい踊りを踊れ!」
ヤッホ  「いいかい? 行くぞ。 
      ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!・・・」
 
 
          祈りの丘。
 
ハギ  「アコの土掘りは、おれ達より速いな。」
ムマヂカリ  「アコ、なんでそんなに速いんだ?」
アコ  「あんた達、腕で掘ってるだろう?」
ヤッホ  「当たり前だろ。腕を使わないで、どうやって掘るんだよ。」
アコ  「背中と腰と腹と腿を使って掘るんだよ。
     じれったいね、そこどいて、あたしがやるから。」
ヤッホ  「な、なんだよ。なんか、悔しいな。」
 
 
          アケビの谷。
 
シロクン  「お! 結構採れたな。
        おれは粘土をあと二袋分、掘らなきゃならないんだ。
        お前たちはどうする?」
カイヌ  「向こう側に山ブドウがまだ沢山あるんだ。」
シロクン  「エミヌは疲れてないのか?」
エミヌ  「私は大丈夫。折角だから、持ちきれないほど採って行こうよ。」
オジヌ  「ここにこんな谷があるなんて知らなかった。
      村のみんなも知らないでしょう?
      シロクンヌが見つけたの?」
シロクンヌ  「そうだ。まあ、たまたまだけどな。」
オジヌ  「やっぱりシロクンヌって、どこか人とは違ってるんだね。
      ねえシロクンヌ、おれ、木工を覚えたいんだ。
      また机作りみたいな事をする時は、おれに手伝わせてよ。」
シロクン  「分かった。覚えておこう。
        ん? 黒切りをじかに持ってるのか。これをやるよ。
        持ち手があった方が使いやすいぞ。
        こないだ、桜の皮で締めて作ったんだ。
        道具は大事だぞ。
        オジヌも自分の手に合った物を、自分で作ればいい。」
 
 
          いろり屋。
 
クズハ  「クマジイとの打ち合わせは済んだの?」
ハニサ  「うん。エゴマ油っていっぱいあるんでしょう?」
タマ  「あるよ。明日、ぶっつけ本番でやれそうかい?」
ハニサ  「高い所での作業になるけど、シロクンヌがいるから出来ると思う。」
クズハ  「シロクンヌがくれたサメ皮、本当に重宝だわ。
      水汲み袋に最適だもの。
      工房でも、川の水汲みに欠かせないみたいよ。」
ハニサ  「サメって大きいんだね! あたし、見てびっくりした。
      サチ、手伝おうか?」
サチ  「じゃあ、お姉ちゃん、ここ押さえてて。」
タマ  「サチは働き者だよ。こまごまと、よく気がつくんだ。
     あたしもこんな子が欲しかったねえ。
     それからハニサ、シロクンヌが作ってくれた、この机、
     これのお陰で随分と作業が楽になったよ。」
ハニサ  「一個は明日、粘土作業で使っていいの?」
タマ  「ここは一つ有れば十分だ。大きいからね。」

 

 

          曲げ木工房。

 

ササヒコ  「眼木だが、今どれほど出来ておるかな?」

テイトンポ  「そっちに出せるのは、40だな。

        明日の夕刻までには、あと60は出来る。」

ササヒコ  「そうか! すまんな。眼木は間違いなく人気をはくす。

       いい土産が持たせてやれる。

       ところで祭りの後に、一度戻ると言っておったが?」

テイトンポ  「おう、アコを連れて、シカ村の者達と戻ろうと思っておる。

        向こうで2~3泊してここみたいのを作ってくる。

        だからコノカミ、眼木はシカ村以外の客に渡した方がいいぞ(笑)。」

 

 

          飛び石

 

オジヌ  「姉ちゃんずるいぞ。

      結局シロクンヌにオンブしてもらったんじゃないか。」

エミヌ  「もう、凄かった! シロクンヌの背中って全然揺れないの。

      風だけがヒューヒュー来るんだよ。

      ハニサはいいなー! いつでも背中に乗れるんでしょう?」

カイヌ  「姉ちゃん、早く降りろよ。シロクンヌが疲れるだろう。」

シロクン  「よーし、ここからは三人で帰れ。おれは川で行水して行く。

        手伝ってくれて、ありがとうな。」

エミヌ  「楽しかったー! また遊んでね!」

 

オジヌ  「シロクンヌがくれた持ち手が付いた黒切り、カッコいいなー。

      おれの宝物だ。」

カイヌ  「兄ちゃん、ちょっと貸して。

      やっぱりだ。

      ほら、この持ち手の桜の皮、輪になっていて切れ目が無いよ。」

オジヌ  「え? 本当だ! 漆付けじゃなく皮その物で締めてあるんだ!

      この皮、どうやって取ったんだ?」

 

 

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領