縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

オニヤンマ 姿を消す 第65話 10日目④

 
 
 
          曲げ木工房。
 
アコ  「ハニサは日焼けしたね。
     何だかまた綺麗になったんじゃない?」 頭上でオニヤンマが揺れている。
ヤッホ  「日焼けしたハニサもいいよな。」
ハニサ  「何がいいのよ。」
テイトンポ  「サチ、これを掛けてみろ。
        試作品だが、似合えばやるぞ。」 頭上でオニヤンマが揺れている。
サチ  「これ、どうやるの?」
テイトンポ  「ここを耳に掛けて、これを鼻にのせる。」
アコ  「わ! ピッタリだ。あたしには小さかったけど。」
ハギ  「サチ、雰囲気変わったぞ。」
ハニサ  「おしゃれだ。これ、絶対流行るよ。」
アコ  「やっぱそう思う? あたしが考えたんだよ。」
ヤッホ  「サチ、あそこの水に映して見て来いよ。」
シロクン  「テイトンポ、もうこんなに出来るようになったのか?」
テイトンポ  「驚いたろう。アコといろいろ試しているが、アコは優秀だぞ。
        なにしろ発想が奇抜だ。身のこなしの勘もいいしな。
        おれは逸材を拾ったぞ。」
ヤッホ  「なんだかアコが遠くに行ってしまう感じだな。」
アコ  「クマジイみたいなこと言ってんじゃないよ。」
サチ  「こんなのミヤコでも見た事ない。
     おじちゃん、これ私にくれるの?」
テイトンポ  「気に入ったのならやるぞ。
        おじちゃんはな、サチの父さんの師匠なんだ。
        困った事があったら、いつでも言って来いよ。」
サチ  「おじちゃん! ありがとう!」 

    サチは、テイトンポに抱きついた。 
    アコは、こんなに嬉しそうなテイトンポを初めて見た。
    そしてこれこそが、縄文ファッションに一大旋風を巻き起こした、
   〈眼木〉誕生の瞬間であった。
    その後、さまざまなデザインの眼木(めぎ)が考案され、
    葉や花、甲虫の翅(はね)などと組み合わせることにより、
    無数のバリエーションが生まれた。
    そしてファッションのみでなく、プロテクターとしても用いられる事になる。
    火山ガラスの異名を持つ黒曜石は、割る時に極薄の破片が飛び散ったりもする。
    それが皮膚に刺さるのだ。
    竹皮などに遮光器のような切り込みを入れ、
    それを眼木に貼り眼球や顔面を保護する・・・
    眼木は、石の採掘や石器加工においても手放せない物となってゆき、
    数多くの眼木人形も作られた。
 

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遮光器土偶 東京国立博物館所蔵

 

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仮面の女神 茅野市ホームページ

 

    サチは、眼木を掛けた、最初の縄文人となったのだ。(眼木=眼鏡フレーム)
    結局100万を超える眼木が製造される事になるのだが、
    細い木製であったために腐食が早く進み、
    残念ながら、未だどの遺跡からも、出土してはいない・・・
 
サチ  「おじちゃん、どうしておじちゃんとアコは、頭にトンボの竹ひごを挿してるの?」
テイトンポ  「これはな、蚊遣りトンボだ。
        こうやっておくと、怖がって蚊が寄って来ないんだぞ。
        この大トンボは、蚊を食べるからな。」
サチ  「そうなんだね。」
テイトンポ  「アコは修行の意味でもこれを付けておる。
        アコの大トンボは、わざと落ちやすく付けてあるんだ。
        落とさんのが、修行だな。
        サチにも付けてやりたいが、今もうこの大トンボはこの付近におらんのだ。
        子供たちが、手当たり次第に獲ってしまってな。
        小さいトンボでは、効果が無いからな・・・」
 
    サチは、明らかにホッとした顔をしたのだが、
    眼木をかけていたせいで、テイトンポはそれに気付かなかった・・・
 
    子供たちと蚊遣りトンボのエピソード   出発前夜 第43話 7日目④ - 縄文GoGo
 
 
          大ムロヤ
 
ササヒコ  「そうか、アユ村でなあ。アシヒコも元気でやっておるんだな。
       スサラ、明るいうちに、サチに村の中を案内してやってくれ。」
スサラ  「サチ、祈りの丘に行ってみよう。今度そこでお祭りがあるんだよ。」
サチ  「はい。」
 
ササヒコ  「なるほど・・・ 気の毒な娘だ。
       もちろん、村におくのは構わん。
       しかしサチは年頃だ。ハニサのムロヤでない方がよかろう?」
シロクン  「そこなんだがなあ・・・」
ハニサ  「あたしは、うちでいいって・・・」
ヤシム  「ウチにくればいいよ!
      今、タホと二人だけだし。
      私もアコがいなくなって、寂しかったから。」
ササヒコ  「ヤシムの所があったか。アコもヤシムと暮らし始めて元気になったからな。」
シロクンヌ  「ヤシム、頼んでもいいか?」
ヤシム  「旅立つまでの間、うちで気楽に過ごせばいいよ。
      かわいくて、素直な子だもの。
      タホ、さっきのお姉ちゃんと暮らすんだけど、工ッチなお話、ねだっちゃだめだよ。」
タホ  「わかったー。」 頭上でオニヤンマが揺れている。
 
 
          夕食の広場。
 
ヤッホ  「どうだ。やっぱり沈んだ村はあったんだぞ。」
ヤシム  「私の負けだね。でもまさか、シロクンヌが見つけるなんてね。」
ムマジカリ  「さっきもらったこの矢じり、今作れる者はいないだろうな。」
クマジイ  「湯はどうじゃった?」 頭上でオニヤンマが揺れている。
ハニサ  「気持ち良かった。朝の湖を見ながら入ったんだよ。
      でも、子供達もみんな、そのトンボ付けてるんだね。」
クマジイ  「ほうじゃ。こりゃいいもんじゃぞ。
       ほいじゃが、夜は気を付けんとな。
       アコの様に、いつコウモリに襲われるか分からんからな。」
ヤッホ  「あれな!(笑)」   前出  出発前夜 第43話 7日目④ - 縄文GoGo
 
タホ  「お姉ちゃん。お膝にすわっていーい?」
サチ  「タホ、おいで。」
タホ  「お姉ちゃん、すっぱいお話、聞かせてー。」
サチ  「・・・お姉ちゃん、すっぱいお話って、よく知らない。」
タホ  「じゃーあ、ヌルっとしたお話、聞かせてー。」
サチ  「・・・えっと・・・」
 
テイトンポ  「なるほど、八方耳が役に立った訳だな。」
アコ  「八方耳って何?」
テイトンポ  「体中に耳をつけるんだ。
        例えば頭の天辺に耳があると思いこんで、一年をすごす・・・」
 
ササヒコ  「みんな聞いてくれ。新しい仲間ができた。
       サチだ。サチこっちに来てくれ。」
サチ  「はい! タホ、一緒に行こう。」
ササヒコ  「サチはシロクンヌの娘だ。ハニサの妹でもあり、タホの姉でもある。
       シロクンヌがハニサの宿住まいなこともあり、
       村にいる間は、ヤシムのムロヤで暮らすことになった。
       みんな、仲良く頼むぞ。
       サチ、一言挨拶を。」
サチ  「サチと言います。よろしくお願いします。」 拍手がおきた。
ササヒコ  「何か聞いておきたい事はないかな。」
サチ  「みなさんの中に、ヌルっとしたお話を御存じの方はいませんか?」
ササヒコ  「?」
ヤシム  「もうタホ! お姉ちゃんに、変なお話ねだっちゃだめでしょ!」
 
    場が、笑いに包まれた。

 

 

 

縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚