縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

オオ豆くずし 第16話 3日目③

 

 

          森の入口の作業場。

 
ハニサ  「居たー!シロクンヌが、居たーーー!」
 
    ハニサが駆け寄って来る。
 
ハニサ  「お弁当、持って来たよ。 いっしょに食べよ!」
シロクン  「おいおい、びっくりしたぞ。来るって言って無かっただろう?」
ハニサ  「来ちゃダメだった?」
シロクン  「そうじゃない。おどろいただけだ。
        おれだって、ハニサと弁当食いたいさ。」
ハニサ  「じゃあよかった。 あたしね、ほんとは最初、来る気はなかったの。
      でも今朝シロクンヌと別れて、すぐに会いたくなっちゃったんだ。
      ここに一緒に座ろう。
      この木、シロクンヌが伐ったの?」
シロクン  「コノカミに手伝ってもらいながらな。」
ハニサ  「すごい!こんな大きな木。だからあんなに汗をかいたんだね。」
シロクン  「何を持ってきてくれたんだ?」
ハニサ  「兄さんがくれた魚の串焼き。 あたしが1本で、シロクンヌが2本ね。
      これがオオ豆くずしで、こっちが栗の友蒸し。 あとはヒエ団子とグリッコ。
      ねえ、あそこで煙が出てるのって、蚊遣りキノコでしょう?」
シロクン  「そうだ。ここらはヤブ蚊が多いからな。」
ハニサ  「シロクンヌは、ここでは火を焚かないの?」
 
    蚊遣り(かやり)キノコとは、サルノコシカケの一種を乾燥させた物だ。
    火を点けると煙が出て、火持ちもいいし、蚊が寄ってこないとも言われる。
    野良仕事で身に着けたりする。
    焚き火をすれば、わざわざ蚊遣りキノコを使わなくても、
    わざと煙を出す事もできるから、今のハニサの質問となった。
    ちなみに縄文遺跡から、サルノコシカケの一種が実際に出土している。
    これは食べられないキノコだから、蚊除けか火口に使われた可能性が考えられる。
    火口(ほくち)とは、火おこしの際に最初に着火させる燃えやすい物の事で、
    当時の火口は、他に、麻縄を削りほぐした物、ガマの穂、ススキの穂などであろう。
 
シロクン  「必要な時は焚くが、おれたちタビンドは、やたらには火を焚かない。
        森の神や、山の神に睨(にら)まれてしまっては、どこへも行けなくなるからな。
        旨いな、この鮎。塩が効いてる。エラ刺しで獲ったのか。」
ハニサ  「火を焚くことがあったら教えて。 ここで器の下焼きしてみたいから。」
シロクン  「あさってか、その次くらいには焚くよ。だが、ニカワ作りするから、臭うぞ。」
ハニサ  「いいよ。あたし、風上にいるから。 わ!もうこんなに汗びっしょり!
      村に帰ってきたら、あたし作業小屋にいるから声をかけてね。
      ムロヤで体をふいてあげる。」
シロクンヌ  「わかった。オオ豆くずしっていうのか・・・こういう食べ方、おれは初めてだ。」
ハニサ  「あたし、子供の頃から食べてたよ。」
シロクン  「友蒸し、栗がホクホクだ。作りたてか?」
ハニサ  「うん。あたしが蒸したんだよ。」
シロクン  「ハニサがか!これおいしいよ。 
        友蒸しは疲れがとれるし、おれ大好きなんだ。」
ハニサ 「じゃあ、また作ってあげる。 栗実酒も、寝かしの効いたやつ使ったんだよ。」
シロクン  「ウルシ村の女たちは、料理が巧いよな。何食っても旨いもん。」
ハニサ  「天気がいいから気持ちいいね! あたし、村の外での食事って久しぶり。  
      旅の途中の食事って、どうしてるの?」
シロクンヌ  「一人旅だから、その日の気分次第ってところだな。
        景色のいい場所で、のんびり食べることもあれば、歩き続けて食べる時もある。
        三日前は、干し肉だけで一日過ごしたな。歩き続けていたんだよ。」
ハニサ  「凄いんだね。あ!あそこに服が干してある。あれは何?」
シロクンヌ  「ここに来る途中、川の飛び石の所で洗濯したんだよ。溜まってたからな。」
ハニサ  「もう!どうしてあたしに言ってくれなかったの?
      あたしがお世話するって言ったでしょう?」
シロクン  「そうだったな。次からは言うよ。
        だけどおれが絞った方が早く乾くと思うんだが・・・
        なんならハニサの服をおれが洗濯してやろうか?」
ハニサ  「そう言えば母さんが言ってた。ムシロをとても固く絞ってくれたんでしょう?
      母さん、驚いてたよ。
      干そうと思って広げようとしたんだけど、なかなか広がらなかったって。」
シロクン  「おれも驚いたよ。あんな時間に洗濯しているんだから。
        変わった村だなって思ったよ(笑)。」
ハニサ  「そう言えば、それも変よね(笑)。」
 
 
       ━━━ 幕間 ━━━
 
縄文土器は、野焼きされたということになっています。
各地の縄文イベントなどで、参加者が作った土器を、マキなどを使って、
野原で一度に焼き上げている動画を、いくつか観たことがあります。
イベントとして楽しむのですから、それについて文句を言う気はさらさら無いのですが、
あの様な野焼きを、縄文人は本当にしていたのでしょうか?
 
まず、一度にたくさんの土器を、一気に焼き上げると言う発想は、窯(かま)から来ていると思います。
窯を知っている現代人の発想ではないでしょうか?
縄文時代に窯はありませんから、たくさんの土器を一気に焼くという発想も無いのでは?
彼らに、多くの土器を一度に焼かなければならない事情が、何かありますか?
大量生産とは無縁の時代ですよ。
 
作者は、土器は、一つ一つ丁寧に、何度かに分けて焼かれたと思っています。
あれだけ情念を込めて加飾を施し、磨き上げた粘土製品なのですよ?
一つ一つ、大事に焼きたくなるのが人情なのでは?
傍らに立てるくらいの普通の焚き火程度の炎で、土器の向きを変えながら焼いたのだと思います。
 
焼き始めたら、焼き上がるまで滞ってはならない・・・
そう思うのは、現代人の感覚でしょう?
ある所まで焼いてみて一度冷ましてみる。
濡れた布でこすってみて、土が付けばそこはまだ焼けていないのだから、そこをまた焼く。
そんなやり方で、立派に土器は焼けるのです。
 
普通の焚き火で、手の届く所で、十分に仕上がります。
物語中に、[下焼き]という言葉が使われていますが、これは素焼きの意味ではなく、
一気に焼き上げない途中焼きとでもいう意味です。
 
では、どこで焼いたのか?
あくまで作者の空想ですが、煮炊きする囲炉裏や夜の焚き火、その炎を使ったのではないかと思うのです。
ただし大きなものは、穴を掘って焼いたかも知れませんね。
 
縄文人は、炎を有効に使ったような気がしてなりません。
彼らは、自然への畏怖心を持っていたはずです。
不必要な巨大な炎・・・それは山への冒涜とも取れます。
土器を焼く為に、野焼きで上がるような、あんな巨大な炎は上げなかったと思えてならないのです。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本