縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

グリッコの作り方 第5話 初日⑤

 

 

 

          広場。続き。

 
シロクン  「旨い!」
タマ  「旨いだろう。たくさんあるからね、遠慮はいらないよ。」
シロクン  「この肉は、熟しだな。見事なこなれだ!それに、タレが最高だ!」
ハギ  「ムマヂカリが投げ槍でしとめた鹿だよ。
     鹿笛の名人で、狩りの腕もいいけど、血抜きが上手いんだ。」
     

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ムマヂカリ  「仕留めたその場でバラすことも多いが、
        血抜きだけはとことんやらねば気が済まんのだ。」
シロクン  「熟しはどうしているんだ?」
ムマヂカリ  「崖の室(ムロ)で吊るしておるよ。」
シロクン  「それにしても、旨いな!旨すぎる!
        おぬしら、毎日こんなものを食っているのか?」
ヤッホ  「毎日だったらどんだけ幸せか。ずっとお預けだったんだぜ。
      ムマヂカリはこの下にあるシカ村の生まれなんだ。
      鹿肉の食い方にはうるさいんだよ。
      まあおかげで、こんな旨いもんが食えるんだから、
      おれは感謝しているけどね。」
アコ(20歳・女)  「ホムラだけは、毎日食べてたね。」
シロクン  「そうか。おれは本当にいい時に来たって訳だ。
        だが肉も旨いが、タレも相当なもんだぞ。」
ヤッホ  「そこにいるアコが作ってるんだ。」
ムマヂカリ  「どんぐり小屋で、カメを二つ、半分地中に埋めて、
        その中でこなしているんだが、詳しい作り方は、
        だれが聞いても教えてはくれん。」
アコ  「死んだ母さんから教わったやり方だからね、あたしも娘にしか教えないんだ。」
ハギ  「イワナやヤマメを突いて来いとうるさく言う時があるから、
     魚の何かが入っているのは間違いないな。」
ササヒコ  「シロクンヌ、これはこの村でしか味わえんのだ。
       アコのタレは生きておって、村を出ると死んでしまう。
       シカ村の連中がそう言っておる。」
シロクン  「味が落ちると言うんだな?不思議なこともあるもんだ。」
 
    残りの肉は焼かれ、グリッコ(どんぐりクッキー)などもふるまわれ、楽しい食事は終わった。
 
シロクン  「ありがとう。すっかり御馳走になったな。本当に美味しかった。
        じゃあそろそろ荷をとかせてくれ。」
子供達  「やったー!」
ヤッホ  「まってましたー!」
 
     子供も大人も、大はしゃぎだ。
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
縄文人はさまざまな哺乳類を食べていたとされています。
貝塚から出る骨を調べてみると、
イノシシや鹿だけでなくウサギ、タヌキ、キツネ、アナグマ、イタチ、イルカ、トド・・・
ちなみに、牛、馬、豚、猫はいなかったとされています。
そんな中で、食べなかった哺乳類が二種類だけいるとのこと。
何だと思いますか?
それは、ヒトと犬。
 
犬について言えば、日本でも弥生から平安、鎌倉くらいまでは、食べられていたようです。
縄文人も、まったく食べなかったという訳ではない様ですが。
ヒトについて言えば、大陸では・・・
いや、ここから先は、止めておきましょう。
 
そしてここからは作者の空想なのですが・・・
5000年前の縄文人は、かなりなグルメであったと思うのです。
理由は、平和だったから。
平和で、なおかつ時間にも余裕があれば、心にも余裕が生じ、楽しみを見つけます。
彼らは楽しみを見つけていて、その一つが、グルメ。
 
グルメと言っても、おいしいものだけを選んで食べるのではなく、おいしくして食べるという意味。
腹を満たすためだけに食べるのではなく、おいしくして食べる。
おいしくするための創意工夫、試行錯誤、それができる心の余裕を持っていたと思います。
もっと言ってしまえば、5000年前の地球で、一番美味しいものを食べていたのは縄文人である、とさえ思っています。
 
骨を断ち割って、骨髄を取り出して食べていた形跡が見られますから、
内臓はもちろん、脳も食べていたかも知れません。
草食動物の腸の中の、消化途中の内容物が非常に美味であるという話も聞いたことがありますし、ことジビエに関して言えば、現代人よりも美味しい食べ方を知っていたとしても不思議ではないでしょう。
 
それに、グルメであったとしたら、臭いにも敏感で、結果、清潔であったのではないでしょうか。
綺麗好きだったと思います。
実際、彼らの居住跡からは、ほとんどゴミが発見されないようです。
ゴミは、外の送り場(ゴミ捨て場)に置いて(捨てて)います。
(他国の狩猟採集民の居住跡からは、骨角器の削りカスが出たりしています。)
彼らには、整理整頓好きな面が見受けられますから、村落全体も綺麗だったと思います。
そして、日本人の風呂好きは、縄文人のDNAから来ていると、作者は本気で思っていたりするのです。
 
 
なおここで、この物語でこの先よく登場する「グリッコ」について説明しておきます。
グリッコとは私の空想上の食べ物ですが、丸っこい乾パンだと思ってもらってもいいです。
ただし、主成分はドングリの粉です。基本的には、味付けはしません。
 
作り方は、まず大量のドングリを拾い、水に浸けて虫を殺します。
その後それを乾燥保存しておき、必要分を取り出して、石皿の上て搗(つ)き、殻は吹き飛ばし、ドングリ粉を取り出します。
そのドングリ粉を流水に晒し、アク抜きをします。それが主材料です。
つなぎにヤマイモや動物の脂を使って丸っこいクッキー状にします。
それを焼けば完成なのですが、焼き方はと言えば、普通は囲炉裏の灰の中に放り込みます。
囲炉裏には灰溜まりがあり、炎に近い場所ほど高温です。
焼き上がれば灰は簡単に吹き飛びますので、付着する心配はありません。
焦げ目の付かない、綺麗な焼き上がりになります。
それをさらに炙ったり、焼き石に載せたりして、焦げ目をつけたりもします。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている