第156話 26日目②
ハニサのムロヤ。
ハニサ、シロクンヌの他に、タカジョウとサチの顔が見える。
タカジョウ 「するとアヤの村は、スワの子宝の湯の付近にできるのだな。」
サチ 「そう。イエの者は、全員こっちに来たがると思う。
スワの湖を見てみたいはずだから。」
ハニサ 「ふるさとみたいなものだよね。」
タカジョウ 「うむ。スワの衆とは、いい関係が築けそうだよな。
それと、ハニサの護りが必要なのだな。
おれが生まれた西の村の事を思えば、備えは絶対に必要だ。
シロのイエの者6人が、ここを囲む様にハグレに成りすまして住むのも名案だな。
おれもタカの村には一度は入るが、できればこっちに戻って来たい。
イエにおいてクンヌとは、そういった事を自分で決められる立場なのか?」
シロクンヌ 「イエによって違うのだろうが、シロのイエではクンヌの発言力は大きいな。」
サチ 「それはアヤのイエでも同じで、多分、すべてのイエでそうだと思うよ。」
ハニサ 「サチもアヤのイエに戻ると、みんなにいろいろ指示するの?」
サチ 「そうだよ。みんなの意見を取り入れて、最後は私の指示で、イエの者は動くの。
私がクンヌだから、クンヌの指示で動くという意味だけど。」
タカジョウ 「なるほどな。もしおれがタカクンヌとなれば、
こっちにタカの里を開くこともできるかも知れんのだな?」
シロクンヌ 「おそらくな。そしてすぐに子作りを迫られると思うぞ。」
タカジョウ 「そうだろうな・・・シロクンヌが18の時に3人か・・・
来年、10歳になる男の子が3人おるんだな。
あ! そうそう、アコがオメデタだってな?」
シロクンヌ 「そうなんだ。テイトンポのはしゃぎようはハンパじゃないぞ。」
タカジョウ 「アコも嬉しそうにしておったな。アマテルと同じくらいに産まれて来るのか。
アマテルかー・・・どんな子だろうな?
やっぱりおれは、こっちに住みたい。
サチはミヤコに戻った後、どんな動きになりそうなんだ?」
サチ 「矢の根石の村の報告をして、そういうのが一段落ついたら、
20人位はこっちに来てもらうつもり。
そしておそらくだけど、ハニのイエも、同じくらいの人数を出して、
二つのイエが協力して、新しい村の造成をする事になると思う。
最初は張り屋(テント)住まいで、
まずアヤの村に40人が暮らせるムロヤを作るところからの出発になりそう。
私自身は父さんの指示に従うけど、指示が無ければこっちに来るつもり。」
ハニサ 「でもこれから冬でしょう? 雪が積もるし、地面も凍って大変だよ。」
サチ 「雪にはみんな慣れているけど、寒さがどうなのかが少し心配なの。
凍った地面は掘れないから、火で溶かして掘るのだけど・・・
タカジョウ、この辺の凍(し)み上がりって、どれくらい?」
タカジョウ 「この村なら、おそらく一回し(70㎝)も掘れば十分だが、
ここよりも高い場所では、もっとだな。
それよりも浅いと、霜柱が柱を持ち上げるかも知れん。」
サチ 「一回しも凍っていると、さすがに地面は触れない。
でも雪があればソリが使えるから、冬は重い物を運ぶには良い季節なの。」
ハニサ 「ソリって何?」
サチ 「雪の上を滑らせる道具。
材木なら、それ自体がソリみたいに滑るけど、石とか滑りにくい物を乗せて運ぶの。」
シロクンヌ 「なるほど! 運び台だな?
滑る台を作っておいて、その上に乗せて引っ張るんだ。」
サチ 「そう。ミヤコの道は、ソリとか木の皮とかが使いやすい様にこしらえてあるの。」
タカジョウ 「ミヤコに行けば、そのソリとやらが有るんだな?」
サチ 「有るよ。でもよく使うのは、ソリよりも、木の皮だけの簡単な物。」
タカジョウ 「簡単な物と言うと?」
サチ 「オニグルミとかヤチダモとかの樹から横剥ぎした皮。
例えば飛び石から村の入口までの坂道に、雪が積もっているとするでしょう。
まず村の入口から飛び石に向かって、
木の皮の上に何かを載せて滑らせて、雪を押し固めて行くの。
人が乗って滑り下りてもいいよ。
奥の洞窟でやった、岩滑りみたいに。ああ、お姉ちゃんもタカジョウも見てないね。
とにかく、雪を固めて、滑る道を作るの。
その道の上なら、下から上に向かってでも、木の皮に物を載せて引っ張れば滑るよ。
木の皮を引っ張るんじゃなくて、上に載せた物を引っ張るの。
木の皮は、外皮側を上にするんだよ。
外皮のゴワゴワが載せた物に引っ掛かるから、
上の物を引っ張れば、木の皮ごと雪の上を滑るよ。」
ハニサ 「そうか。木の皮の道があって、その両脇に人が歩く道があればいいんだ。
二人の人で引っ張ればいいもんね。
イノシシだって、木の皮に載せさえすれば、飛び石から村まで二人で運べそうだね。」
シロクンヌ 「棒に足をくくって二人で担ぐよりも、遥かに楽だろうな。」
サチ 「なぜソリよりも木の皮かと言うとね、
雪の上に横たわるイノシシを、木の皮なら簡単に載せられるから。
イノシシの背中の下の雪を掻きわけて、木の皮を差し込んで、イノシシを転がすだけ。
足に縄を結んで引っ張れば転がるでしょう?
木の皮の方を、少し低くしてもいいし。
ソリに載せようと思ったら、イノシシを持ち上げないといけない。」
タカジョウ 「なるほど、よく分かった。イノシシは一例だな。
そうやって雪を利用する訳だ。
その時大事なのは、引っ張る縄はイノシシに結ぶって事だ。
皮に結ぶと、皮が破れるかも知れんからな。
ソリならば、丈夫に作ってあるから、ソリに結んでもいいという事な訳だ。
しかしサチの話は、いちいち感心させられるな。」
ハニサ 「雪っていうのは、利用する物なんだね。そんな風に考えたことって無かったよ。」
シロクンヌ 「まったくだ。勉強になった。この村でも使えるよな?」
ハニサ 「うん。コノカミや、みんなに教える。
この冬から、実際にやってみたらいいよね。
ところで、タカジョウは明日からどういう風にするの?」
タカジョウ 「基本は洞窟に住もうと思ってる。
まだ見て無いが、話ではそうとう住みやすそうだしな。
カタグラとナクモも、じきに、住み始めるみたいだから、
邪魔にならんようにせんとな(笑)。
狩りや木の実採りをして、食料を備蓄しておこうかと思ってる。
鴨のサクラ燻しを大量に作っておくよ。」
ハニサ 「お祭りの時に食べたあれね! すごく美味しかった。大人気だったんだよね?」
タカジョウ 「ハハハ。あと、柴も大量に集めておかないとな。
ハギとナジオはここから毎日通うと言っていたから、
たまにはおれもこっちに来るつもりだ。」
ハニサ 「夜宴も早くできそうだね。あー、ソマユに会うの、楽しみだなー。」